3つに大別できる妄想の経過
では今述べたようにアプローチすると、妄想は治るのでしょうか、私の臨床経験からは、経過はおよそ3つに分けられるようです。
まず第1に、上記のアプローチで「私の勘違いかな~」という感じに変化するタイプ。結局これは強い曲解であった可能性が高く、妄想ではないと診断できます。
曲解とは、「物事や相手の言動などを素直に受け取らないで、ねじまげて解釈すること」で、かなり疑念の強い状態(Suspicious)です。この場合は、結局、妄想状態ではなかった可能性が高いので、曲解しやすい性格傾向の指摘などの別のアプローチをとることになります。
第2のタイプは語られた妄想の訂正はできませんが、「最近は相手がもう諦めたようだ」などと、現時点では、(心理的)攻撃はなくなったという言動に変化していくタイプ。この時点で無理やり以前の言動を訂正するのではなく「それはよかったですね」など共感して支持することとなります。回復という観点からは、ほとんどの妄想はこのタイプをとるようです。
第3は、妄想が沈潜するタイプ。「妄想は語られねばわからない」という箴言のごとく、語られなくなっていくようです。このタイプは第1のように妄想が消失したか、「この人たちに話しても無駄」との感覚で、妄想は固着しつつ心の中に沈潜しているのかは、結局わかりません。ただし、周囲は、「もう間違ったことを言わなくなった」と安心できます。
治ったように見えても、結局、妄想を訂正できることは少なく、心の奥で静かに眠っているだけのことが多いようです。主治医としては「そのまま眠っていてね」と祈るばかりです。その定義から考えても、訂正できないのが妄想ですし、診断と治療の矛盾や「眠るように沈んでいく」経過から、やはり「妄想は手ごわい」のです。
次は「信頼できる精神科医の見つけ方」についてお話します。
国際医療福祉大学 福岡保健医療学部 精神医学教授。
1952年佐賀県生まれ。九大法学部を卒業後、精神科医を志し久留米大学医学部を首席で卒業。九州大学病院神経科精神科で研修後、佐賀医科大学精神科助手・講師・その後佐賀県立病院好生館精神科部長を務め、2012年4月より現職。この間佐賀大学医学部臨床教授を併任。