妄想を持つ患者さんの苦しみに焦点

私の場合は、「妄想を持つ患者さんの苦しみに焦点を当てる」というアプローチをとります。

一般的に、妄想は「被害妄想」がほとんどです。患者さんには、「恐ろしく、怖く、存在が脅かされている(やられる)」という感覚にさいなまれています。このため、この怖さ・苦しみに焦点を当てて診察を進めていくのです。

具体的には、「それはお困りですね~」「大変なことが起こって疲れますね~」「フムフム……。ところでそんな時どうされていますか?」など、臨機応変にやり取りをすることが肝心です。

診察の方法をまとめると

1)妄想に対しては、決して肯定も否定もしない(肯定もしなくていいのです。肯定すると逆に妄想を強化することもあります)
2)つらい場面に陥った時、患者さんはどうしているか、いわゆる対処法を尋ねる(このやり取りで治療に利用できるヒントが見つかることもままあります)

また「それじゃ、神経が疲れてゆっくり眠れませんね。いい薬がありますからゆっくり休んで、その問題にあたりましょうね」といって薬物療法を提案することもあります。成功率は8割前後といったところです。ほとんどの患者さんは薬物療法について素直に同意してくれます。患者さんもそれくらい追い詰められ疲れているのでしょう。

患者さんのご家族も、その愛情がゆえに「そんなことはありえないだろう」と強く何度も否定し続けていることがほとんどのようです。診察に同席している家族も、こうしたアプローチによって、患者さんの表情が少しずつ和らいでいくのを見て、一緒にゆとりを持たれることが多いようです。

初回の面接の目標は、「あの医者(とスタッフ)は、敵ではない」「はじめて私の言っていることを、分かってくれる人に会った」などと感じてもらうことです。一瞬でも逆の感覚を持たれたら、診断は確定しますが、2度と外来には来てくれないでしょう。

おびえている本人を支えることが、基本中の基本の態度と思われます。具体的には、前回述べたように、高齢女性の「物とられ妄想」対して一緒に探すというアプローチもこの大原則にそったものです。

「そりゃ大変だ。なんとか手伝うから解決しようね……」。患者さんの苦しみに焦点をあてつつ支える人こそが、いちばんの薬なのです。