小さな逸脱が長期的に累積していった

【安井】日産が11月17日に国交省の提出した報告書では「過去に何がきっかけで不適切な行為が常態化したのか、調査(第3者委員会による調査報告書)の結果からは判断できず、推測も難しい」と記述し、はっきりとした原因は分かりませんでした。

【藤本】おそらく経営上層部の指示や黙認ということではなく、当該の品質担当部署が「これぐらいの逸脱行為は品質問題を起こさないだろう」という判断をしたことから始まったのではないかと推測されます。その動機はまだ分かりませんが、いろいろな過去の例から推察するなら、ある部署の特殊的な理由から始まった逸脱行為が増幅した可能性もあります。

また、それが繁忙期であった可能性もあると思います。実際、「品質の専門家として、この程度の逸脱行為は品質問題を起こさないと判断できる。多忙でもあり、このぐらいは問題なかろう」というような判断と動機で始まった小さな逸脱が長期的に累積していったケースは、過去にもあったと思います。

いずれにせよ、会社としてはいつ始まったのかわからない、というのは、「本社が現場を把握できていなかった」と言えばそれまでですが、おそらくその通りなのでしょう。

「かなり一般的な会社の特殊な部門が引き起こした」

【安井】検査や品質の担当部署は専門的な部署だから勝手に自分らで判断してしまいがちだと言うことでしょうか。

【藤本】逸脱行為が長期的に継続していた理由にも関係しますが、一般に、開発部門の設計品質にせよ、生産部門の製造品質担当部署にせよ、品質担当部署は、その専門性や情報の機密性から、人があまり動かず、また外部からその活動が分かりにくい傾向が往々にしてあります。したがって、仮に当該部署が逸脱行為を隠蔽しようと意図すれば、内部通報や自主的な情報開示がない限り、社外であれ社内であれ、その部署の部外者がそれを検知することは容易ではありません。

問題の発覚後も逸脱行為が続いていたことを経営陣が把握できていなかったという話も、この検知困難性が一因でしょう。それは、今回の案件に限らず、設計品質や製造品質に関連する逸脱行為という問題が構造的に持つ一般的な傾向と私は考えます。

今回の問題は「特殊な会社が引きこした」というよりも「かなり一般的な会社の特殊な部門が引き起こした」と受け止めるべきでしょう。つまり、同様の逸脱行為が、今後、他の会社でも発覚する可能性は、残念ながらかなりある、ということです。

【安井】そういった構造を放置した経営陣も問題ですね。

【藤本】その通りです。ここまで長期的に問題が発覚しなかったことに関しては、それを把握すべき立場にあった本社や監督官庁の側の監督不足も当然問題であり、そちらの側も反省と改善が必要でしょう。

藤本 隆宏(ふじもと・たかひろ)
東京大学大学院経済学研究科教授。1955年生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱総合研究所を経て、ハーバード大学ビジネススクール博士課程修了(D.B.A)。現在、東京大学大学院経済学研究科教授、東京大学ものづくり経営研究センター長。専攻は、技術管理論・生産管理論。著書に『現場から見上げる企業戦略論』(角川新書)などがある。

安井 孝之(やすい・たかゆき)
Gemba Lab代表、フリー記者、元朝日新聞編集委員。1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京経済部次長を経て、2005年編集委員。17年Gemba Lab株式会社を設立、フリー記者に。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。
(撮影=プレジデントオンライン編集部 写真=アフロ)
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