「検査不正」や「品質改竄」の発覚で、日本の製造現場に対する信頼が揺らいでいる。しかし、東京大学大学院の藤本隆宏教授は「早すぎる『安全宣言』という失敗は、現場ではなく経営の問題。日本の現場は強くなっているのに、経営がその強さを理解できていない」と指摘する。藤本教授と元朝日新聞編集委員・安井孝之氏の「ものづくり対談」、第2回をお届けする――。
11月10日、データ改竄について記者会見を行い、会場を後にする神戸製鋼所の川崎博也会長兼社長(写真=ロイター/アフロ)

「不正」が2017年に集中的に発覚した理由

【安井】検査・品質部門は専門性が高く、人の流動性も少ない、いわば閉鎖的な部門になりがちなので、逸脱行為が隠蔽される可能性があります。こうした問題の深層構造からみると、他の企業においても同様の問題がいまだに潜在している可能性があるというご指摘ですが、会社はどう対応すればいいのでしょうか。

【藤本】問題は構造的に複雑であり、残念ながら特効薬はありませんが、基本は、あらゆる逸脱行為に関し、「隠さない、隠せない、隠れない」仕掛けを本社も現場も国交省などの監督者も、当事者意識を持って地道に時間を掛けて工夫していくことしかないでしょう。長期的な問題の解決は、それ自体も長期の取り組みにならざるを得ません。

【安井】国交省の監査体制も不十分だったと言わざるを得ません。長期にわたり不正を見つけることができませんでした。もちろん社内の監査体制も不十分でしたが。

【藤本】長期的に潜伏していた問題が2017年に集中的に発覚した理由は、一般には、自主申告、内部通報、検査・監査強化といった個別の理由ですが、理由が何であれ、いったんこれらが深刻な問題として社会の批判にさらされれば、危機感を強めた当事者たちにより、自主申告、内部通報の活発化や、検査強化による発覚の連鎖反応が起こる可能性は高まります。

ソーシャルメディアの時代、こうした連鎖反応はおそらく加速化するでしょう。いずれにせよ、仮に自社内にそうした逸脱行為が潜在していた場合、企業の社会的責任から言えば、それらを顕在化させ一気に解決するしか選択肢はなく、その努力と覚悟が今、産業全体で必要と思われます。

最悪なのは、だらだらと発覚が続くこと

【安井】すでにご意見をうかがいましたが、現状では日本の良いものづくり現場の競争力は幸いにも低下しておらず、今回の不正は現場が悪くなったことを示すものではないことはわかりました。ただ今回の不正問題が、今後、日本のものづくりの評判を落としてしまうことが心配ですね。そのためにもどんなことに取り組むべきでしょうか。

【藤本】今回のような逸脱行為が次々と顕在化する事態が続けば、仮にそれが客観的な品質不良にはつながってはおらず、現場で測定される不良率の相対的な低さなど、いわゆる「深層の競争力」で、日本の現場が過去において実際に強かったのだとしても、日本製品に対する顧客の主観的な信頼や認知的品質、つまり「表層の競争力」が毀損されることは不可避です。こうした問題の発覚がだらだらと何度も続くことが、日本製品全体の競争力に最も深刻な悪影響を与えます。

しかしながら、企業の社会的責任から言えば、こうした逸脱行為が仮に自社にまだ潜在しているなら、それらを一気に顕在化し、誠実に公表し、迅速に品質への影響調査を行い、結果を明確に報告し、逸脱行為の再発防止を徹底的に図るなど、この問題全体を解決しきる覚悟が産業人の側に必要だと私は考えます。