品質不良がみつからなくても、簡単に安全宣言は出せない

【安井】消費者の立場からすれば、日産や神戸製鋼所などの不正が最終商品の品質に欠陥をもたらした恐れはないのかという点も気になります。今のところそういった事例はなく「安全」だと当事者は表明していますが、いかがでしょうか。

東京大学大学院の藤本隆宏教授

【藤本】過去において、設計品質・製造品質関連の逸脱行為が長期的に継続していた結果、重大な事故や機能的欠陥につながった例は、残念ながらありました。今回の案件に関しても、発覚までの期間が長期であったことから、その間に発生した品質不良や事故などが実はこの問題に起因していなかったか、疑義のある期間全体にわたる徹底的な影響調査が必要です。これについては、結論は時期尚早ですが、今後明らかになってくるでしょう。

重要なのは過去の品質欠陥の事例が今回発覚した逸脱行為に起因していなかったか、その因果関係を長期にわたり、できる限り調べ続けることです。

ただこういった影響調査をした結果、実際に品質不良につながった例が仮に見つからなかったとしても、簡単には「安全宣言」を出すことはできません。その段階で言えるのは、「私たちが過去のデータを徹底的に調べた限りでは、今回の逸脱行為を原因として、お客さまにご迷惑をおかけした品質不良や事故は、幸いにも今のところは見つかっていません」ということまでです。さらに入念な影響調査を続ける必要があります。そういう愚直な企業努力が、信頼度の回復には必要です。

どうやっても逸脱行為の正当化はできない

【安井】産業界の不断の努力はもちろん必要ですが、完成検査のあり方も時代に合わせたものにする必要があると思います。検査工程でも自動化が進んでいます。例えばハンドルを切った時に、タイヤが定められ角度に曲がっているかを調べる「ハンドル切角検査」は作業員がハンドルを切れば、自動的に判定できる仕組みになっています。日産の調査報告でも「スキルもいらないので問題はないと考えた」と完成検査員が答えています。ものづくり現場の現状と国交省がもとめる検査の内容とにギャップがあるのではないかと思いますが。

【藤本】その可能性はあります。自動車メーカーには「品質は各工程で作り込む」という考え方があります。それぞれの工程で品質を保証し、次の工程に欠陥品を流さない、という考え方です。確かに完成車検査は法令で定められているが、「品質作りこみ」の現場努力の結果、検査の段階で見つかる品質の内部不良はそもそも少ないと、その企業、現場、品質管理部署などが考えていた可能性はあると推察されます。

実際、今回の案件でも、仮に、問題を起こした企業が徹底的に調査した結果、逸脱行為に起因する品質不良の事例が見つからなかった場合、顧客への品質保証という根本目的から考えれば、そもそも遵守を求められていた法規や規制そのものが過剰なものではなかったか、と推測するのが自然でしょう。

仮にそういった影響調査の結果が出てくることがあるなら、これを機会として、自動車業界と国交省があらためて十分対話をし、より良い検査の在り方を見直す必要もあるのではないかと思います。無論その場合も、違反は違反であり、それが逸脱行為を正当化することには断じてなりませんが。