米国や英国で企業が巨額の課徴金を課されるケースが増えています。約3000億円に達したケースもあり、最大2億円という日本とは事情が大きく異なります。さらに自国の法律を自国外にも適用する「域外適用」で、新興国での贈賄なども摘発対象になっています。「想定外」のリスクへの備え方とは――。

社員個人が禁錮刑、罰金刑になることも

2017年4月には、ブラジルの大手建設会社がブラジル、スイス、米国の当局に26億ドル(約2900億円)の課徴金を支払うことで合意したと報じられました。実際に贈収賄が行われた国は中南米、アフリカの12カ国とされています。また、17年7月には、欧州連合(EU)が米国を代表する大手IT企業に対し、欧州における同社オンライン検索サービスにおいて、自社ショッピングサービスを優遇したとして、独占禁止法違反で24億2000万ユーロ(約3000億円)の課徴金の支払いを命じました。

ここで注意したいのが、最近の贈収賄禁止・競争法違反のケースでは、米国・英国・EU等が国境を越え、実際に問題が発生した場所に限らず、自国の法律を自国以外の域外に適用していることです。また、捜査の過程で、おとり捜査、複数の国の当局による協働などが一般的であることも認識すべきです。更に、当該企業へ課徴金、保護観察(再発防止対策の進捗)を課すだけでなく、関与した社員個人も禁錮刑、(個人に対する)罰金刑になることも、忘れてはなりません。

域外適用は国際カルテル等では一般的となっています。これは、価格協定や生産協定など競争を制限するカルテル行為がどこで行われたか(属地主義)ではなく、影響を受けた国(効果主義)が告発することが国際的に認知されています。例えば、米国の企業が日本でカルテル交渉を行い、EU域内でカルテル行為をおこなった場合は米国、日本の当局ではなく、EU当局がカルテル行為をおこなった会社を摘発するということです。こうした事態はほとんどの日本企業も認識しています。

しかしながら、これまでは、米国、EUといった主要な国の競争法に対応していれば事足りる、との考え方が一般的でしたが、近年は中国をはじめ、各国が競争法の適用に熱心になっていることに留意が必要です。この背景には、「莫大な罰金を科すことができる」という点が、各国当局にとって、「魅力的」であることが挙げられます。

また、米国では摘発強化のために自己申告制度や報奨金制度といった整備も進んでおり、この手の不正競争に対する包囲網は着実に強化されている状況です。さらに、各国が独自に捜査を行い取り締まりに乗り出すだけでなく、立ち入り検査を同日に行うことで隠蔽を阻止しようとする協力体制も広がっています。なお、ブラジルでは他国の判断をベースに事実評価をするといった動きが見られ、一度罰則が適用されると芋づる式に企業の損失を膨らませる結果となります。

一方、贈収賄禁止については、域外適用があまり認識されていないように感じます。一般的に、どの国でも公務員等に対する贈賄等を禁止し、その多くは厳しい罰則を課しています。外国公務員への贈賄禁止については、OECD外国公務員贈賄防止条約が1999年2月に発効し、OECD加盟国を中心に現在約40カ国が同条約に締約しており、国際社会でも取り組みが図られています。なお、この40カ国の中にはOECD非加盟国であるブルガリア、ブラジル、アルゼンチン、南アフリカ、ロシア、コロンビア等も含まれており、海外における贈賄等に厳しく対処する姿勢を示しています。