ミャンマーの少数民族ロヒンギャの迫害が国際問題になっている。「21世紀最悪の虐殺」という非難の声もあがるが、11月のASEAN首脳会議でも事実上無視された。周辺各国もイスラム教徒であるロヒンギャの受け入れには消極的で、ミャンマーの国家顧問を務めるアウンサウンスーチー氏もこの問題への明言を避けている。急成長していたミャンマー経済に、失速のリスクが高まっている――。
深刻化するミャンマーの「ロヒンギャ」問題。国内の政治情勢を勘案するとアウンサウンスーチー氏も身動きが取れない。(写真=ロイター/アフロ)

100以上の少数民族を有する多民族国家

日本の報道においても、「民政移管したミャンマーが、どうしてこんなことをするのか」、「アウンサウンスーチー氏は、どうしてこの問題について積極的に発言しないのか」といったものが目立ちます。実際には、外から見ているほど簡単な問題ではないのです。日本ではあまり知られていませんが、実はミャンマーは、そもそも多民族国家です。

日本の約1.8倍の面積を有し、約5193万人の人口はASEAN諸国10カ国中、5番目の規模。主要民族はビルマ族68%、シャン族9%、カレン族7%、ラカイン族4%の他、少なくとも100以上の少数民族を有しています。また、宗教的には仏教89%、キリスト教4%、イスラム教4%等となっています(民族および宗教については米国中央情報局(CIA)の「The World Factbook」による)。

ミャンマーは1962年以降、軍事独裁政権が続いていましたが、1988年に市場経済復帰を宣言し、外資導入等、経済政策を大きく転換し、それ以降高いGDP成長率を維持しています。以前から、ミャンマーにおける投資環境は、労働コストが極めて低いという利点がありました。また、労働人口が豊富で、天然資源にも恵まれ、さらに、高い識学率、勤勉・温和・親日的な国民性など、潜在的な投資環境は良好でした。このような状況の中で、ミャンマーでは2011年3月30日、民政移管が行われ、投資環境は一層、良好なものとなりました。

その後、EU、米国は経済制裁を段階的に緩和しました。また、ミャンマーでは2015年11月8日に民政移管後初の総選挙が実施され、アウンサウンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝し、政権が樹立されました。これによってミャンマーは、名実共に国際社会への復帰を実現しました。

最近では、日本政府が支援したヤンゴン郊外のティラワ港経済特別区も整備され、日本からの進出企業も2016年10月現在397社に達し、在留邦人も2315人にのぼり、今後も進出が拡大すると予測されています。そんな中で起きたのが、今回のロヒンギャ問題でした。