日本の諸宗教の信者数を合計すると、国民の数より多くなることをご存じだろうか。2016年版『宗教年鑑』(文化庁)によれば、神道系が最多で約8952万人、仏教系が約8871万人、キリスト教系が約192万人、その他が約871万人となっており、合計すると1億8800万人を超える。こうした結果になるのは、各団体の自己申告という調査方法、そして、日本人の多くが神社と寺の双方とつながりを持っているためだろう。
比較してみると、寺と信徒のつながりは、神社よりも形式的に明確だ。多くの家が檀家という形で特定の寺と継続的に関係し、葬式の際にはその寺の僧侶を導師とする。一方、神社との関係はそれほど確固たるものではない。
知らないうちに「氏子」にカウントされる
だが神社側からすると、ほとんどの日本人はどこかの神社の氏子(うじこ)の一員ということになっている。先の統計で神道に8900万人超の信者がいるのは、本人も知らないうちにどこかの神社の氏子に数えられているからだ。氏子とはいったい何なのだろうか。
氏子は氏神(うじがみ)と対応する言葉だ。ネットの掲示板などでは、自分のルーツ探しのための氏神の調べ方や、引っ越し先の氏神の調べ方についての相談を見かける。基本的には各県の神社庁に連絡すれば、自分の氏神を教えてもらうことはできる。しかし、現在言われている氏神は、実は本来の意味での氏神ではない。『宗教年鑑』には次のようにある。
「神社を称して氏神ということも多い。氏神が意味するところは、(1)文字通り氏族の祖先としてまつる神、(2)祖先神でなくとも氏に由緒ある神、(3)居住地の鎮守の神、を含むが、氏神というとき(3)の鎮守の神をさすのが近世以降では一般的となっている。」
つまり、本来の氏神は(1)だったのだ。だとすれば「引っ越し先の氏神」を調べるというのはおかしな話になる。要するに、時と共に、氏神が土地の守護神である鎮守神と混同され、よくわからなくなっているのが現在の状況なのだ。