大事なのは考えが尖っているかどうか

――森さんの「突破力」と木庭さんの「俯瞰力」にバトンをつないで、さらなる飛躍への挑戦をされるわけですね。以前、出口さんは本誌連載「悩み事の出口」の取材で「尖った人がいい」とおっしゃっていました。木庭さんは、誠実で物静かな印象ですが、尖っているんですか?

【出口】尖っています。大事なのは、「考えていることが尖っているかどうか」です。大手と同じことをやっていたらベンチャーは必ず滅びます。大手は社員数も多いし、資金力もあるわけだから。小さいベンチャー企業が生き残っていくためには、一人ひとりが尖るしかないんです。でも、尖るというのは人格的にではなく、何よりも深く物事を考える力。そういう意味で、木庭君はとても尖っていると思います。

――木庭さんに伺います。出口さんによれば、「木庭さんは尖っている」そうですが、ご自身は自覚されていますか? 

【木庭】どうでしょう(笑)。もともと公務員で、政策立案などの仕事に携わっていました。民間企業以上にいろいろな制度や利害関係が複雑にからみあう世界で働いてきたので、もし「全体を見る力がある」としたら、それまでの仕事がそうさせてくれたのかな、と思います。私は30歳過ぎにライフネット生命に入社しましたが、厚労省からベンチャー企業に行く人はあまりいないですね。他の省庁には割といるのかも知れませんが。そういう意味では、尖っているのかもしれません。

それから医療政策もやっていたので、医療サイドのことにも興味があります。保険会社にいても、そういう視点の人は必ずしも多くないのではないのかなと感じます。保険会社は金融業ですが、それだけではなく実際に給付金を使う場面でのサービスも大事。両方を一緒に考えることで、お客様にとっての課題解決になると思っているので、そういう考え方は周りから見ると、尖っているというふうに映るかもしれません。

民間の方が国民の生活を豊かにできる

――なぜ、厚生労働省を辞めて、ライフネット生命に入ろうと?

【木庭】厚労省を辞める直前は、「協会けんぽ」という中小企業向けの公的な医療保険の団体に出向していました。もともと厚労省へ入ったのは、生活を豊かにしたいと思ったからです。でも2008年のリーマンショック後の仕事では、社会保険料を上げなければならなくなったり、社会保障の給付を削らなければならなかったりで、「これは何か違うな」と感じることもありました。当時は国民の日々の生活を守りたいと思って入ったのに、少子高齢化で負担を増やすことや、給付を減らすことを考える業務をやっていたわけです。

その一方で、私はちょうど大学生の時にインターネットが普及しはじめた世代にあたります。大学生のときに所属していた国際交流団体の活動で、国際電話をするとものすごくお金がかかることを体感した時代から、スカイプを使うことでまったくお金がかからなくなった時代への転換期。そのようなテクノロジーによって生活が豊かになる変化をまさに体験した世代です。