他社に会社を委ねれば、事業は継続され、社員の雇用も守ることができます。オーナー経営者自身は株の売却益を得て、ハッピーリタイアすることができます。

M&Aは、オーナー経営者の高齢化に伴って浮上してきた事業承継問題を鮮やかに解決する絶好の手段でした。

こうした時代の流れに乗って、M&Aは市民権を得て急速に浸透していきます。かつてのマイナスのイメージは薄れ、経営課題を解決する手段として認知されていきました。

M&Aに対する認識は、ここ数年でさらに変化を見せています。中堅・中小企業でも会社の成長を実現する手段としてM&Aを選択するオーナー経営者が増えてきたのです。

背景にあるのは、産業構造の変革です。

時代は「事業承継型」から「成長戦略型」へ

従来の産業カテゴリーのなかでビジネスを展開するだけでは成長に限界があります。ところが、前回の記事でもご紹介したように、いま起きているのは、産業カテゴリーの垣根を越えた異種格闘技戦です。

この戦いを制するには、これまでの枠組みを飛び越えて会社そのものが多機能化する必要があります。その手段としてM&Aが効果的だと理解され始めたのです。

『どこと組むかを考える成長戦略型M&A』(竹内直樹著・プレジデント社刊)

時代は、「事業承継型M&A」から、「成長戦略型M&A」へ――。

これが現在の潮流です。これから数年の間に成長戦略型M&Aはさらに普及して、東京オリンピック・パラリンピック後には、あえて成長戦略型といわなくても「M&A=企業の成長」という図式ができ上がっていることでしょう。

ちなみにアメリカでは、会社を売却することをゴールにベンチャー企業を立ち上げる起業家が続々と誕生しています。M&Aで得た売却益を元手に、また新たに事業を起こし、会社を成長させて、ふたたび売却を目指すというサイクルがすでに完成しているわけですが、遅かれ早かれ日本も同じ状況になるのは間違いありません。