パイが増えねば「人減らし・給与減らし」される
この夏、アメリカの中西部に出張しました。ある自動車部品メーカーの現地法人を訪問したのです。その会社では完全に自動化されたラインがいくつか稼働していました。5年前にその工場を訪問した時にはなかったものですが、5年前と同じ従業員数で、生産数は2割以上も増えたということです。ロボット化で生産性を向上させたわけです。
幸い、この工場では受注額が増加しているために、働く人の数を減らすことなく、生産を続けています。この工場では、パイが増えたために従業員を減らすことなく、ひとり当たりの生産性を高めたわけです。ただ、「完全自動化ライン」などの生産性の向上は、パイが増えなければ、結局は雇用を奪いかねないとも言えます。
これは、同じことが日本でも起こると思いました。先にも述べたように「働き方改革」を成功させるためには、全体のパイを増加させる中で、生産性を高めることが必要ですが、今の日本では「もろ刃の剣」です。
経営側から見れば、ひとり当たりの付加価値生産額を増やすには、やはり、機械化やAI(人工知能)の活用が必要となってきます。とくに、日本では、有効求人倍率が1.5倍を超え、バブル期を超える人手不足の中では、機械による生産性向上が不可欠です。
▼「働き方改革」の成功は「パイ」増加が前提
しかし、これは、先の米国の工場のように、売り上げが右肩上がりならいいのですが、日本経済のように成長率が低い場合には、人員削減につながりかねません。そうなれば、職を得て働いている人の生産性は高まりますが、その一方で、職を失う人が増えるのです。もうひとつの「ホワイトカラーエクゼンプション」についても、パイが増えない中では、単に残業代が削られるだけという結末になりかねません。
ちなみに、日本では、統計の変更を除けば、1990年代初頭から、付加価値額の合計(つまり給与の原泉)である名目GDPはほとんど増加していません。このためひとり当たりの給与のピークは1997年となっています。ちなみに米国では同期間に名目国内総生産は3倍に増えており、給与もそれに応じて増えているのです。
つまり、「働き方改革」は、名目GDPが増加すること、つまり全体のパイが増加することが大前提なのです。パイが増えない中での個別企業の残業削減や生産性増加は、給与減少か雇用削減しかもたらさないのです。本物の成長戦略なしには「働き方改革」は成功しないのです。