アマゾンの商品や配送の料金、サービスの内容は、他社との比較や競争によって決まっている。たとえばそれまでアマゾンがつけなかったポイントを日本で採用するようになったのは、ネット通販で評価の高いヨドバシカメラの影響が大きいと私は推測している。

ライバルの存在を失えば、サービスは緩む

しかし他社が今より競争力のない料金やサービスしか提示できなくなった場合、アマゾンが頑張る理由はなくなってしまう。どんな優れたアスリートでも、ライバルの存在を失った途端、モチベーションが下がり、鍛錬を怠ることはあるのだ。アマゾンも利益を価格やサービスに還元するというスタンスが、今より緩むということは十分にありうる。

また、いくつかのサービスは、今後値上げする可能性が高い。たとえば短時間配送やビデオ配信などのサービスが利用できる「アマゾン・プライム」は、日本での会員価格が年間3900円。米国ではこれを99ドルに設定しており、明らかに割安な状況である。これは利益度外視で会員を増やすための、競合を意識したキャンペーン価格だろう。現在の2000円以上購入すると配送料無料になる価格設定も、もう少し高い値段が適正なはずだ。ただし、どちらも赤字覚悟で提供していると思われるので、仮に値上げがあったとしても仕方ない範囲だと理解すべきだろう。

アマゾンが圧倒的に繁栄したとき、不利益をこうむるのは消費者に限らないかもしれない。法人税が入らない日本にとって、大きな痛手という見方もある。

独走を止めるのに必要なのは法整備

アマゾンはこのまま行けば、日本のネット通販市場において突出した一強になる可能性が高い。しかし楽天が本気で抜本的な改革に取り組み、ポイント制度により地方での販売に強みを持つヨドバシカメラなどが奮起すれば、競合としてブレーキをかけることはできるだろう。

たとえば楽天のビジネスモデルはさまざまな商店が自身の商品を展示する「市場」の形態であるため、物流の点では自らが小売りでありロジスティクスの強力な仕組みを持つアマゾンに劣る。しかし別の見方をすれば、各商店が自らの商品を消費者に直送できる強みがあるということ。差別化を図り、産地直送の果物のような特定の商品は楽天で買いたい、と消費者に感じさせるサイトをつくることができれば、アマゾンに対抗できるはずだ。

そしてアマゾンの独走を食い止めるのは、競合他社の存在だけではない。私が特に必要だと感じるのが、国内の法整備である。

アメリカでは不公平な競争を回避するため、赤字でものを売るダンピングは禁じられており、ものを売るときに物流にかかった経費を必ず価格にのせる決まりがある。こうした法律が日本にはないことをアマゾンは利用し、価格を下げて自社の強みにしている。過当競争を避けるための法律をつくっていかないかぎり、体力のあるアマゾンが日本で勝ち残ることを防げないだろう。

(構成=吉田洋平 撮影=宇佐美 利明)
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