それではアメリカとの関係はどうだろうか。日本国憲法前文では、人民の人民による人民のための政治に関する「厳粛な信託」が「人類普遍の原理」とされているが、これは18世紀に作られたアメリカ独立宣言の論理構成に、リンカーンのゲティスバーグ宣言の言葉(government of the people, by the people, for the people)を取り入れたものである。
(前略)そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
Government is a sacred trust of the people, the authority for which is derived from the people, the powers of which are exercised by the representatives of the people, and the benefits of which are enjoyed by the people. This is a universal principle of mankind upon which this Constitution is founded. We reject and revoke all constitutions, laws, ordinances, and rescripts in conflict herewith.
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
Article 13. All of the people shall be respected as individuals. Their right to life, liberty, and the pursuit of happiness shall, to the extent that it does not interfere with the public welfare, be the supreme consideration in legislation and in other governmental affairs.
アメリカ独立宣言(*4)
われわれは、以下の事実を自明のことと信じる。すなわち、すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているという こと。こうした権利を確保するために、人々の間に政府が樹立され、政府は統治される者の合意に基づいて正当な権力を得る。(後略)
We hold these truths to be self-evident, that all men are created equal, that they are endowed by their Creator with certain unalienable Rights, that among these are Life, Liberty and the pursuit of Happiness.-- That to secure these rights, Governments are instituted among Men, deriving their just powers from the consent of the governed, --
それにしても、日本がアメリカと同盟関係を結ぶことは、憲法起草時にアメリカ人が想像していなかった事態だと言えるだろうか。むしろ実際には、アメリカは、日本をアメリカの脅威にならない平和国家に作り変えることを、占領の目的としていた。占領時からそのまま駐留している米軍の存在や、日米安保条約の集団的自衛の論理は、当初から憲法が予定していたものだと考えるのが自然だ。
9条および前文の「justice」の意味
憲法9条は、「目的」を宣明する(編集部注:宣言して明らかにする)機能を持った条項であり、その目的とは「正義と秩序を基調とする国際平和」である。9条の規定は、「正義と秩序を基調とする国際平和」を求めるという目的にしたがって解釈するように、憲法典は求めている。