数値目標に意味がない理由

――藤原専務のお話を伺っていると、クルマ作りへの基礎的な考え方が、過去のマツダも含めたこれまでの自動車メーカーの考え方と違うと強く感じます。私の理解では、それはバブル末期の5チャネル構想※の失敗や、リーマンショックの失敗で何度も経営危機に襲われたことの反省がベースになっているように思うのですが、それは理解として合ってますか?

※5チャネル構想……国内販売を強化するため、販売網を「マツダ店」「アンフィニ店」「ユーノス店」「オートザム店」「オートラマ店」の5系統に増やし、多車種展開を行った。

【藤原】そうですね。もちろんそこからつながっています。ああいう経験は、もう二度としたくないという思いがあって……何度も浮いたり沈んだりしていますから、もうホントに嫌なんですよ。二度と落ちたくないという思いが強くあり、落ちないために何をするんだと考えた時に、競合車と対比して勝った負けたと右往左往すると、おごったり、目先の事にとらわれたりするので、競合車と関係なく、自分たちで考えた普遍的な高い目標……目標を理想と言い換えてもいいと思うんですが、そういう外部要因に影響されない目的を置いて、それに向かってモノ作りをしていくべきだと考えています。

――競合車を分析して数値目標化すると、開発の間に新たな競合車が出てきたら、ゴールが動いてしまいますからね。それだと開発中に何度も目標が変わって、開発が手戻りしてやり直しになってしまって、無駄な仕事ばかりが増えるということですね。

【藤原】その通りです。フォード時代はずっとそれをやり続けていたんです。もうそれは二度とやりたくないんです。それをやっている限り「追いかける側」であって、それは心理的にすごくつらいんですね。周りをキョロキョロ見るのではなく、唯一の理想に向かって開発を行う方がはるかに健全です。

――なるほど、そういう新しい考え方で第6世代商品群は開発されてきたわけですね。となると伺いたいのは、マツダの中で起きた“変化”です。その前後で、マツダの人たちの何がどう変わったのですか?

【藤原】何が変わったか……うーん、難しいですねえ。働いている人のやる気かなぁ、目かなぁ、熱意かなぁ……それまではみんな沈んでいましたから。目が死んでいましたからねえ。あと、自ら動くことになったことでしょうか。良い方向に回り始めた気はしています。

→ 藤原清志専務インタビュー(後編):「CX-5まで耐えろ」マツダが挑んだ離れ業http://president.jp/articles/-/22347

(池田直渡=文)
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