妻「家で仕事なんかしないでよ」

また、在宅勤務は電話応対など余計な雑用が回避され、仕事に集中できるので生産性も上がるという意見もある。だが、子育て世帯であれば小学生の子供は午後4時過ぎには帰宅する。友だちでも家に連れてきて、仕事をしているリビングのテーブルの周りで騒がれたりすれば、仕事に集中できるとは思えない。そうなると残りの仕事は家事を終えてからの“持ち帰り残業”にならざるを得ない。

労務行政研究所が実施した人事担当者に対するアンケート調査でも、デメリットとして「子どもや配偶者が在宅中では仕事がやりにくい」「職場にいると気軽に仕事の相談ができるのに対し、在宅勤務は仕事のやりとりをメールと電話等でやらなければならず、限界がある」などの答えが挙がっている。育児・介護中の社員などに限定して在宅勤務を認めている企業も少なくないが「自宅に専用のスペースを確保することが不可能な現状では、勤務時間と育児時間が混在せざるをえない。執務に集中できない状態で在宅勤務を行うことは、会社・本人の双方にとってデメリットしか生まない」という意見もあった。

自宅に仕事ができる専用スペースがなければ、リビングで仕事せざるをえない。ある電機メーカーが在宅勤務のトライアルを実施したところ、自宅に書斎がある社員は3割に満たなかった。例えば50代の男性社員がリビングで仕事をしていると、妻が掃除を始める。掃除機の音がうるさくて仕事に集中できないというアンケートの回答もあった。中には専業主婦の妻から「家で仕事なんかしないでよ!」と怒られた人もいたという。

カフェに仕事をしに行く途中、交通事故にあったら労災?

それが嫌でパソコンを持参し、近所のカフェで仕事をしようという人も出てくるかもしれない。自宅以外で仕事をしてはいけないと言っている会社は少ないだろう。だが、自宅からカフェに向かう途中で交通事故に遭った場合はどうなるのか、あるいはカフェの階段で人とぶつかって転倒するような事故に遭った場合はどうなるのか。

在宅勤務中に業務が原因で生じた災害は労災保険の保険給付の対象になる。実際に高い棚から物を取ろうとして腰痛になったとか、仕事中に上から物が落ちてきてケガをしたことで労災を認定されたケースもある。だが、会社の上司に「午後から駅前のカフェで仕事をします」と連絡をすればいいが、何も言わなくて出かけた場合の災害の認定はかなり微妙だ。

在宅勤務の範囲内と思われるが、上司は何も聞いていないし、見てもいないので事実関係が分からない。労働基準監督署に交通事故を通勤災害、カフェでの事故を業務上に起因する災害として労災申請しても、間違いなく会社と本人に問い合わせがあり、事実関係について聴取されることになる。本人が仕事をしていた、あるいはするつもりだったという証拠としてカバンにパソコンを入れていましたと主張しても、本当に仕事をしたのか、どんな仕事をしようとしていたのか厳しくチェックされるだろう。もし認定されなければ、療養補償給付や休業補償給付も受けられなくなる。

在宅勤務は必ずしも本人にとってメリットばかりではない。時間管理が表面的にはできていても、在宅でのサービス残業が横行することになれば、ワークライフバランスとは真逆の事態になりかねない。