在宅だと「働き過ぎてしまう」問題

一方、在宅勤務は本人にとってもメリットばかりではない。例えば労働時間管理である。多くの企業では始業時間、休憩、終業時間を上司に連絡することになっている。会社の終業時間が午後6時であれば、そのときに「本日の仕事は終了しました」とネットで報告しても、本当に仕事が終わったのか、もう仕事をしないのかどうかは分からない。

本来であれば、在宅勤務であっても定時を過ぎて働けば残業代の対象になるが、残業時間を申請する人がどれだけいるのだろうか。「他の同僚が会社に出勤して仕事をしているのに自分は在宅で仕事をさせてもらっている」と負い目を感じている人は申請しにくいだろう。

その結果、長時間労働に陥る危険もある。前出のIT企業で在宅勤務者のアンケートを取ったことがある。

「注意しないと仕事をやりすぎてしまうという意見が結構ありました。やりすぎるのは、成果を出さなきゃ、アピールしなきゃという無言のプレッシャーを感じているから。実際には誰もプレッシャーをかけていないのですが、わかっていても真面目なのでつい長時間仕事をしてしまいやすい。もちろんそういう人ですから、残業代を申請することもありません」

実はこういった人たちは特別な人ではない。慶應義塾大学の鶴光太郎教授は、アメリカの研究調査ではテレワークによる生産性向上の効果を確認していることを踏まえ、こう述べている。

「生産性向上に関する研究はテレワーカーの自己申告に基づくものであり、彼らにはテレワークが成功していると考えるバイアス(偏り)があることを指摘している。実際、テレワーカーの67%が生産性向上を報告したが、そのうち40%が自分は働き過ぎであると答え、生産性向上が労働時間の増加で水増しされた可能性を示す調査例を紹介」(『日本経済新聞』「経済教室」2017年5月15日朝刊)。

労働政策研究・研修機構の調査(2015年)でも、テレワークのメリットとして「仕事の生産性・効率性が向上する」と答えた従業員が50%を超えているが、長時間労働になりやすいと答えた人が約20%もいる。つまり、在宅勤務をすれば必ずしも生産性が向上するとはいえないということだ。