人の手を渡った古い本には物語がある
人の手を渡った古い本には、中身だけでなく本そのものに物語がある――。鎌倉の片隅にある古書店を舞台に、うら若き店主・篠川栞子と店員の五浦大輔のコンビが、古書にまつわる謎を解いていく『ビブリア古書堂の事件手帖』が人気だ。2011年3月に第1巻が発売され、この2月に発売された第7巻で累計発行部数が640万部のベストセラーになっている。
「高校、大学はずっと文芸部に所属していました。南米の作家、ガルシア・マルケスが好きで、大人のための残酷な童話『エレンディラ』や『百年の孤独』などに影響されて、部誌に幻想的な短編などを書いていました。仲間が『おもしろい』といってくれることに気をよくして、将来は作家になるのは当然のように思っていたのです。でも、実際にデビューできるまでには10数年かかりましたけれど(笑)」
こう話す作者の三上延氏は、その初志を貫徹するために大学を卒業しても就職をしないで作品を書き続けたのだという。高度経済成長期のサラリーマンで、本を読む暇もなかったという父親からは「28歳までは好きにしていい」との許しをもらい、いくつもの賞に応募するものの、なかなか入選にはいたらなかった。もちろん、それなりの不安がなかったはずはない。本を買うために中古レコード店でアルバイトをしたのもこの頃である。そして、約束の年齢になったとき古書店に勤務。「いよいよだめなら、古本屋になろう」と腹をくくる。
三上氏は「古本だけでなく、マンガやゲームなどの買い取り、値付けをしながら原稿に取り組みました。そして『ダーク・バイオレッツ』というホラーノベルが、メディアワークス(現、KADOKAWA アスキー・メディアワークス)の主宰する電撃小説大賞で3次選考までいったのです。賞こそ取れませんでしたが、編集部の目に留まり、2002年にデビューできました」と話す。