登場する本はブックガイドのつもり

この作品を皮切りに「電撃文庫」から6つのシリーズ作品を次々に出版していく。やはり、ホラー風の作品が多かったが、11年3月に発表した『ビブリア古書堂の事件手帖』がヒット作になった。第1巻のあとがきに「いつの頃からか、古書についての話を書いてみたいと思うようになっていました。北鎌倉を舞台にしたのは、昔からぼくがよく知っていて、ぼくの書きたいイメージに合った静かな土地だったからです」と記している。古都・鎌倉の醸し出す雰囲気が女性の支持を広げたのだろう。

執筆当初、想定していた読者は、主人公の大輔のように本を読まない20代の男性だった。これは三上氏の初期作品を読みながら育った世代といってもいい。だからこそ栞子は、そんな世代の青年の心をくすぐるメガネをかけた胸の大きい年上女性にしたのだという。

しかし、実際には中高年のファンも少なくないらしい。所属するレーベルは「ライトノベル」と呼ばれるジャンルに分類されることもあるが、その読み応えは力のある文芸作品と比べてもまったく遜色ない。そうした作品のもつ力は、三上氏の豊富な読書量に裏付けられたものだろう。作品のなかで取り上げる古本については、ブックガイドのつもりでも書いているという。

「本というのは楽しいという気持ちを、古書を通して伝えたかったのです。短編の連作になっていて、毎回、何らかの本が登場します。第1巻には夏目漱石の『それから』や太宰治『晩年』、あまり知られていないかもしれませんが、私の好きな小山清の『落穂拾ひ』などが出てきます。そして、その本にまつわる謎解きが進められるという設定です。苦労したのは、古書の独特の味わいを読者にどうわかってもらうかでした。読者の人が興味を持ってくれる本が1冊でも増えればうれしい」(三上氏)