必要なときに立ち寄れる第2の我が家

2016年10月、東京・豊洲にオープンした「マギーズ東京」。

ロケーションが東京都江東区豊洲に決まり、クラウドファンディングで建築費用も集めることができました。小口であっても数千件もの募金をあつめられたことで、合計2000万円以上になったのです。こうしたクラウドファンディングの仕組みには本当に驚きました。その後、英国の許可を得て、2016年10月10日に「マギーズ東京」が誕生しました。

豊洲周辺では2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、開発が急ピッチで進んでいます。しかし、マギーズ東京がある場所は、空が広く開けていて、そばには大きな川が流れています。暖かい日は窓を開け放って、新鮮な空気を入れながら、相談者さんの来訪を待ちます。庭には四季を感じることのできる樹木があり、まだ小さいながらも目を楽しませてくれます。

施設の運営をはじめて、この場所ががん患者にとって、とてもいいロケーションであることを実感しています。なぜなら、がん研有明病院、国立がん研究センター中央病院、聖路加国際病院など、近隣には複数のがん専門病院があり、いずれからもアクセスがとてもいいからです。

マギーズでは看護師のスタッフが常駐しています。確かな医療知識を持ったスタッフは、患者さんの気持ちに寄り添うことを第一に考えいます。騒がしい場所で待たされるのではなく、リラックスのできる環境でお茶を飲みながらお話をうかがいます。一人きりの時間を過ごしたいという方には、そうしていただけるスペースも用意しています。相談支援では、ゆっくりお話を聞きながら、患者さんが自分で答えを見つけ出していただけるよう、寄り添うようにサポートをします。

「がんでステージ4です」という告知を受けたとしても、まったく同じ状態の人はいません。症状や環境はそれぞれまったく違うのです。だからこそ、その方のお話をじっくりと聞きながら、「一番知りたいことはどんなことなのかな」「どんな情報を必要としているのかな」「心配に思っていることはどんなことかな」と常に考えています。そして、本人が「今日はこのことが心配だったのだ」と気づき、目の前の目標を作るお手伝いをするのです。

これは単純なように思えるかもしれませんが、そうしたプロセスを経ることで、マギーズの来訪者は「自分を取り戻した気分になる」と言います。実際に、来た時よりもずっと明るい表情になって「また来ていいですか?」と笑顔で帰られる人が大勢いらっしゃいます。

ある時、患者さんが、こう言っていました。

「マギーズのことを知ってはいたけれども、その日は自分には必要ないと思っていました。でも、今日の自分には必要だったのです」

この一言は、マギーズのことをうまく表現してくれているなと思います。ある時は必要ないと思っても、いまは必要だと思う。そして必要だと思った時、気軽に立ち寄れる……。まさに「第2の我が家」という気持ちでいらしてくださればと思っています。

木の匂いのする建物に目の前には川が広がり、対岸には東京の街。こんなにゆったりとした場所で、ご自身が家族や身近な人にも言えない思いをスタッフに打ち明けることで、次のステップを見つけていただけたらと願っています。

日本のあちこちにマギーズが増えていくよう、今後は努めていきたいと思いますが、まずはこの日本版マギーズ第1号を社会のなかにしっかりと根づかせて、もっとこの施設の大切さや必要性を、1人でも多くの人に知ってもらいたいと思っています。

秋山正子(あきやま・まさこ)
マギーズ東京センター長、株式会社ケアーズ代表取締役・白十字訪問看護ステーション統括所長。
1950年、秋田県秋田市生まれ。73年聖路加看護大学卒業。2001年、ケアーズ・白十字訪問看護ステーションを設立。2010年、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』で取り上げられる。2016年、マギーズ東京を設立、センター長となる。
【関連記事】
健康な今から「がん」に備えるべき3つのこと
がん闘病は「高額療養費制度」で十分なのか?
「がんからの生還者」から学ぶ「治る人」の共通点
どんな状態であっても人には言葉がある
末期がんの医師であり僧侶が実践する「いのちのケア」