今、重度障害児の教育の専門家が、言葉も意志もないと考えられていた重度の障害を持つ子供たちから直接言葉を引き出すことに成功しています。従来の常識を根底から覆す説を唱える國學院大學の柴田保之先生は、人生の途中で病気や事故などで意識障害となった大人も同じで、彼らにも意識や言葉があって、そこから新しい会話が生まれるのだといいます。
「重度障害者に言葉はない」常識のウソ
意外に思う人もいるでしょうが、どんなに重い障害を持った人でも、彼らの中には言葉が存在します。その障害が後天性のものでなく、先天性のものであってもです。このことは、今まで研究を積み重ねてきた私の中で決して揺らぐことのない確信になっています。ただ、私のような考えは医学や教育の世界ではまだまだ少数であることも事実です。
医学の世界では、今でも「重度障害者の世界に言葉はない」という考え方が“常識”です。実際、そう信じて見ていると、そのように見えるでしょう。しかし、もっと微細な、ミクロの世界を観察するように注意を払うと、たとえば指先のかすかな動きや体のわずかな動きから、彼らの中には広い広い世界が展開されていることがわかってきます。
とはいえ、私も初めから彼らの世界をきちんと理解していた訳ではありません。大学時代の恩師である中島昭美先生にいろいろと教えていただいことが、いい意味で大きく影響しています。中島先生は障害者教育の分野ではアウトローな方でしたが、ある時、「柴田君、子供というのは、もっと堂々とした存在だよ」とおっしゃりました。
他にも「彼らは人間として素晴らしい」とか「奥行きが深い」といったことを 常々おっしゃっていました。「重度障害者に意識なんてない、ましてや言葉の可能性は厳しい」という考え方が当たり前だった時代にです。中島先生に教えてもらえたのは本当に幸運でした。中島先生のおかげで、私は障害を持つ子供たちに対して、先入観を持つことなく接することができるようになったのだと思っています。
しかし、それでもなお私は、重度障害の子供たちから言葉を引き出すことまでは考えていませんでした。そんな自分の価値観を根底から覆された大きな出来事が2つあったのです。