農協改革の第二幕は、肥料や農薬といった割高な農業資材の販売価格と非効率な流通機能(サプライチェーンが長すぎて、農協の委託販売では農家は儲からない)の見直しが焦点になった。改革案の取りまとめに奔走した小泉氏だが、もともと農林族ではない。しかし通常は1年交代の党の農林部会長を2年連続で務めて、農協改革に腰を据えて取り組んできた。「農協のためではなく、農家のためになる改革」という姿勢を貫いて、農家を食い物に巨大化してきた農協の問題点を広く国民に提起したことは政治家としてクリーンヒットと言える。結果的には首相直轄の規制改革推進会議が出してきた急進的な提言にJA側と自民党の農林族が猛反発して、改革案は一歩も二歩も後退した内容になった。結局は党と官邸の板挟みになって苦労したわけで、押し切れないところは力不足、経験不足と言わざるをえない。それでも小泉氏の農政に対する認識の正しさ、筋の良さは示したと評価できる。

力及ばず、農政改革は後退(小泉進次郎農林部会長)。(写真=時事通信フォト)

「農業生産力の増進及び農業者の経済的社会的地位の向上を図り、もって国民経済の発展に寄与する」(農協法第一条)。本来、協同組合は組合員が自主的につくる相互扶助組織である。農協の目的が農業の生産性向上と農業者の生活向上にあるなら、地域農協だけあれば十分で、上位概念の全国組織なんていらない。たとえばJAバンクの中央機関である農林中央金庫はもともと農業など一次産業のためのディベロップメントバンクだった。今やJAバンクの貯金残高は約90兆円でメガバンクに匹敵するが、そこから農業に融資される金額は数%しかない。JAバンクに預金するのも、住宅ローンなどの融資を受けるのも、今や半分以上が非農業者(准組合員)だ。JAバンクがかき集めた預金を世界中で運用しているのが農林中央金庫で、日本最強のヘッジファンドと目されている。

農業の現実を直視すれば、農業者を助ける「農協」の役割が薄れていることは一目瞭然だ。今や日本の農家の約9割が兼業農家。そして兼業農家は収入の8割を農業以外から得ている。一番大きな収入は何かといえば年金。年金をもらう年代層が日本の農家の担い手であって、コメ農家の平均年齢は70歳に近づいている。コメ農家の平均所得を見ると、年金所得は農業所得の3倍以上だ。それでも農業をやめない理由は非常に簡単で相続税がかからないから。後継者がいて、30年を超えずに農業を継続した場合、相続税を払わないで済む仕組みになっている。クルマも、視察名目なら海外旅行も経費で落とせるし、農協ルートでガソリンも安く買える。農業を続けるメリットは農業以外の私生活分野にたくさんある。専業農家を除けば、農業者は農業収入に頼っていない。農業は「便利」だからやっているだけ。サラリーマンよりよっぽどリッチだ。特に日本は農政の中心にコメを据えて、コメをつくっていれば食いはぐれがない仕掛けをつくってきた。国際相場ではコメは名だたるコモディティで、産地価格は1キログラム25円程度。日本のコメはその10倍以上するから国際競争力はまったくない。それを778%という高い関税と減反政策(生産調整による補助金)で守ってきた。

普通の国では農地は儲かるものに作付けを転換していく。しかしコメ農家を過剰に守ってきたおかげで、日本ではこれがまったく進んでいない。提供者の論理で農林水産行政をやってきて、それを農協や漁協が仕切って選挙のときには自民党に協力し、恩返しとして業界と利権を守ってもらうということで、理不尽な産業構造が温存されてきたのだ。