地域農協の株式会社化が農業を変える

私は日本の農業が変わる大きな転機になりうるのは、農協の株式会社化だと思っている。ただし、それは規制改革推進会議が提案しているような上(JA全農)からの株式会社化ではない。上位組織だけ株式会社化して、下は農協のままでは何も変化は起きない。むしろ株式会社化して利益最優先となれば、農業資材を高く売って農産物の買い取り価格を安くしたほうが儲かるわけで、地域の農業者にとって迷惑なことになりかねない。

規制改革推進会議が株式会社化を言い出した最大の理由は、農協の政治的影響力を削ぎたいから。もともと郵政族の集票マシンだった郵便局は株式会社化してJPになってから政治運動ができなくなった。日本最大の農業ロビーである農協もそうしたいのだ。

しかし、本当の農業改革につながるのはJA全農の株式会社化ではない。全国に700ある地域農協の株式会社化である。農業の変革は上からではなく下から、地域から始まらなければいけない。一連の改革で「株式会社化しなければいけない」までは踏み込めなかったが、「株式会社化してもいい」ことにはなった。それぞれの地域農協は自主的判断で株式会社化できるようになったのだ。協同組合では1人、2人が反対したら何も動かせないが、株式会社になれば51%の賛成多数で意思決定できる。株式会社化して自由度を得た地域農協が志向するのは、やはりアグリテックだろう。アグリテックはICT(情報通信技術)やAI、IoT(モノのインターネット)など最新テクノロジーを活用した農業のことで世界的なうねりになっている。

日本の地域農協にとって大いに参考になるのがオランダだ。国土面積が九州くらいしかないオランダは、農協の株式会社化とアグリテック化で、世界第2位の農産物輸出国にまでなった。危機感を持った日本の農協が株式会社化して、アグリテックに取り組めば、オランダに負けない農業を生み出す可能性は高い。実際、日本でも野菜の一部はそうなっていて、長野県川上村の高原レタスや群馬県嬬恋村のキャベツなどはIoTセンサーとデータベースを駆使した農業経営をしていて、農業者の年収は数千万円にもなる。

世界の5大食品会社の1つであるダノンはもともとフランスの農協である。700ある日本の地域農協から、1つでも2つでも目線の高いところが出てきて、世界を相手に買い付けたり、販路を開拓したり、マーケティング力やブランド力を発揮できるようになれば、その地域農協は非常に強力な力を持ち始める。同じく株式会社化した近隣の農協を買収して、次々と農地を拡大、集約していく。つまりダノン化するのだ。そこからは戦国時代に突入して、オランダみたいに多くの農協がつぶれるだろう。しかし、勝ち残ったユニットは非常に強力になり、世界に打って出る力を身につけているはずだ。

(小川 剛=構成 時事通信フォト=写真)
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