経営判断を誤り、突然死を迎えるパターンとは

新たな成長戦略を決める政府の「未来投資会議(議長は安倍晋三首相)」の第4回会合(1月27日)で、企業の「稼ぐ力」を高めるためにコーポレート・ガバナンス(企業統治)を強化する方向性が打ち出された。具体的には社外取締役の活用や、退任した経営幹部が相談役や顧問に就任して現経営陣に影響を及ぼす慣行の見直しなどが検討課題に挙がったそうだが、そんなものは「やらないよりはやったほうがいい」程度の枝葉の論点である。企業の「稼ぐ力」を決定づけるのは経営トップのビジョンと判断力であって、社外取締役もコーポレート・ガバナンスも(電車で言えば)暴走防止、脱輪防止の副次的なファクターにすぎない。

近頃、日本企業がこけるパターンはいくつかあるが、やはりトップの経営判断に問題ありというケースが多い。しっかりした経営判断ができない理由として、産業の突然死さえ引き起こす「デジタル・ディスラプション(デジタル化による破壊)」と呼ばれる潮流に対する認識の低さ、感覚の鈍さが挙げられる。

たとえば小売りの世界。家電量販店にしてもアパレルのスペシャリティショップにしても、店頭で勝負してきたような会社は軒並みアマゾンにやられている。eコマースの市場が拡大する一方でリアル店舗の販売不振が深刻化している中、店舗競争の発想から抜け出せないようではお先真っ暗だ。今や世界第2位の個人消費大国の中国には2000ほどのショッピングモールがあるが、この1年くらいでモールから客が激減している。アリババのようなECサイトで買い物を済ませる人が爆発的に増えているからだ。eコマースの成功の鍵はネット上の顧客の入り口である「ポータル」と商品を届ける「デリバリー」、商品代金を受け取る「帳合」の三拍子が揃うことだが、中国ではこれが急速に発達した。物流網は充実の一途だし、ポータルもネットの決済機能も長足の進歩を遂げている。今やクレジットカードをスキップして、アリババ系の「アリペイ(Alipay)」やテンセント系の「ウィーチャット・ペイ(WeChat Pay)」などのモバイル決済サービスを活用して携帯電話で支払いを済ますのが当たり前なのだ。アリババは昨年の11月11日(独身の日)だけで、1兆9000億円を売り上げた。それくらい中国人はネットで買うクセがついているのに、まだ建設中のモールが800くらいある。ゴーストモールになるのは目に見えているが、認可が出ている以上、建設されるのだろう。日本でもアマゾンの売り上げが1兆円を超えて、大手GMS(総合スーパー)の売り上げを追い抜く勢いだ。店舗マージンがないeコマースは仕入れが安いし、アマゾンは自動的に価格を変えるシステムを持っている。他店が最安値で売っていれば、その価格まで下げる。豊富な商品アイテムの平均値で儲かればいい方程式を採用しているから、いくらでも価格勝負に持ち込める。しかもデリバリー機能付き。既存の小売業者では太刀打ちできない。