デジタル・ディスラプションのような世の中の変化に気づくのが遅れたり、気づいても同業者との競争や馴れ合いに漬かっていた企業が、まったくコスト構造の違う企業に足をすくわれる。このパターンが今、非常に多い。民泊仲介サイトのAirbnbが昨年1年間に日本で仲介した宿泊数は90万泊(実際には350万泊だったという驚くべき数字もある)。民泊の違法性がいまだに議論されている日本でも、利用はこれだけ進んでいる。昨年の訪日外国人数は2400万人を突破して過去最高を記録した。しかしインバウンドの増加に比べると、外国人の延べ宿泊者数はそれほど増えていないという統計が出ている。このギャップが意味するのは統計値にカウントされるホテルや旅館には泊まらないで、民泊やクルーズ船泊、車中泊を選択する旅行者が増えているということだ。だからインバウンドが増えても、旅館経営の現実は厳しい。Airbnbが仲介する物件は、普段はアイドル(空いている)リソースだ。利用者がいなくても損しないし、使ってくれたら儲けものだ。客がこなければくるような値段に自由に変えられる。しかし旅館の場合は客がこなければ従業員の給料など固定費がそのまま赤字になる。しかもJTBとか楽天トラベルとか代理店に出した値段があるから、宿泊代は臨機応変には変えられない。競争の条件がまるで違うのだ。

民泊は旅行業界を圧迫(東京都大田区の民泊物件の一戸建て)。(写真=時事通信フォト)

日本が世界に冠たる自動車産業でもデジタル化など技術革新によるディスラプションの波が押し寄せている。これはかなり強烈で、自動車の世界では今3つのことが同時進行している。一つはクルマを持たないというオプションの広がり。近頃はコインパーキングの一角にはカーシェアリング用のクルマが必ず置いてある。カーシェアリングは会員登録しておけばネット経由でいつでもクルマを借りられるサービスで、レンタカーよりも手軽で安いということで急速に普及してきた。これが広がるとクルマを持たなくなる人が3分の1はいると言われている。つまりクルマの販売台数が30%減るわけだ。

2つ目は自分でクルマを保有している側のアイドルエコノミーの動きで、クルマが空いている時間に「どうぞ使ってください」と貸し出す。海外ではUberのような配車サービス会社に登録して、空き時間にマイカーでタクシーやハイヤー業務をやっているドライバーもいる。ベンツもUberをやりたい人のために収入を担保として頭金なしで売り出す、というスキームを始めると言われている。クルマがキャッシュフローを生み出す動産になってきたわけだ。

そして3つ目は電気自動車(EV)の普及。内燃機関のクルマの部品は3万点と言われるが、電気自動車になると部品はその10分の1、3000点で済む。従ってEVが主流になるとクルマの価格は一気に安くなる。従来のクルマに比べてスピードも出ないから、タイヤ性能やブレーキ性能を追求する必要もない。自動運転の技術の進化と相まって、クルマは純粋な移動手段になってくるだろう。世界の自動車業界は合従連衡が進んでいるが、5年先、10年先を正確に見通せる人は少ない。少なくとも最大のマーケットである中国はEVに向かう。深刻な大気汚染対策もあって、すでにEVとPHV(プラグインハイブリッド車)にしか補助金を出さない、という制度がある。オランダでは2025年までにEV以外のクルマの販売を禁じる法案を検討している。これが世界的な潮流になる可能性は高く、乗り遅れれば致命傷になりかねない。またEVでしかも自動運転となれば、濡れ手に粟でやってきた自動車保険も大きく変わらざるをえない。