ホワイトカラーの生産性を高める妙薬

日本の企業にとって今後もデジタル・ディスラプションが相当シリアスな収益損失の原因になる。経営トップは常にアンテナを高くして、自分の会社、業界がどれだけの危機にさらされているのかを自覚して、正しい経営判断につなげていくしかない。これもビジョンと判断の問題になるが、グローバル化の罠にかかって大きくつまずく日本企業もここにきて目立つ。世界で一定のシェアを持っていて、それなりの歴史と名声があるような会社を買う。世界化の近道としてよくある手段だ。しかし準備できていたのは買収資金だけで、経営力が備わっていないケースが多い。原子力の名門ウェスティングハウスを買った東芝などはその典型だし、ピルキントン(英)を買った日本板硝子、グローエ(独)を買収したリクシルなども同じ失敗をしている。世界化を目指すのであれば、海外の会社をマネジメントできるグローバル人材を20年かけて育成する必要がある。

日本企業が「稼ぐ力」を高める一番効果的な方法は何か。間接業務の生産性を高めることだ。日本の企業はホワイトカラーの仕事、特に間接業務の生産性向上に取り組んでこなかった。この30年、業務のやり方そのものを変えていないのだ。間接業務というのは霜降り肉みたいなところがあって、定型業務と非定型業務が入り交じっている。そこで作業標準をつくって、まずは定型業務と非定型業務に切り分ける作業をする。非定型業務というのは事業計画を立てたり、コンティンジェンシープラン(緊急対応計画)をつくったり、新商品の構想を考えたり、資本提携のシナリオをつくるといったクリエーティブな作業になる。こちらは作業効率ではなく思考の深さと効率の問題だから、トレーニングで鍛えるか、思考効率の高い人材を配置しなければ「稼ぐ力」は向上しない。

一方、間接業務の大半を占めるのは定型業務で、これはほとんどAIやICTで代替できる。私の経験上、人員を4割カットしても定型業務に支障はきたさない。カットした人員を営業などに回せば、その分、売上高は伸びる。「稼ぐ力」のアップには一番効果的だ。残業60時間、というのはこちらの話で、クリエーティブな仕事には残業とかブラックという話はない。何時間かけてもやるしかない。それができなければ企業はたとえ効率化しても突然死を迎える時代に入ったのだ。

(小川 剛=構成 時事通信フォト=写真)
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