近年、GEやグーグルなど、アメリカの大手企業が人事評価をやめる動きが相次ぎ、日本企業でも注目されはじめています。なぜ、このような動きが起きているのでしょうか。

GEのジェフリー・イメルトCEOは人事評価の廃止を決めた。(写真=時事通信フォト)

注意しておきたいのは、「人事評価をやめる」といっても、こうした動きは、人材の評価そのものをやめるわけではない、ということです。人材の成長を促し、企業の成果につなげていくためには、人材の評価が不可欠です。

アメリカ企業が何をやめたかというと、人材をSABC……などにランク付けすることです。例えば、アメリカ企業の代表的な評価手法に、成果と人物評価(成長性、リーダーシップ等)の二軸を置き、それぞれ3段階に分け、3×3=9つのボックスに人材を当てはめて評価する「ナインボックス」があります。こうしたやり方では、しばしば箱に割り振ることが目的化してしまい、低く評価された人材はモチベーションや成長意欲が低下して、企業の成果に貢献しなくなります。そこで、人をランクや“箱”に押し込めることをやめようとする動きが起きているのです。

また、MBO(目標管理制度)の見直しも行われています。マネジャーと部下の間で目標を設定・共有し、その達成を支援し、結果を評価してフィードバックを行う流れ自体は、人を成長させ、企業の成果につなげていく「人材マネジメント」の基本です。しかし、それを制度化したことにより、ランク付けが目的化したり、期中のコミュニケーションのほったらかしなどが起こり、意欲や成長の面で問題が起こってしまいました。

そこで、ランク付けをやめてMBOも見直し、代わりに職場でのコミュニケーションを強化し、マネジャーが日常的に部下のモチベーションを高めたり、成長を支援したりすることに重きを置くようになったのです。

人材マネジメントは人事部の役割と思われがちですが、本来は職場で行われる部分が大きいのです。人が働き、喜びを感じ、成長するのは、すべて職場で起きることです。従って、職場の一人ひとりのモチベーションを高め、成長を促すことは、現場のマネジャーの重要な役割でした。その後、人事の効率化・制度化を図る過程が人材のランキング、カテゴリー分けに変えてしまったわけです。それを、もう一度現場の人材マネジメントに戻そうとしているのが、今回の動きだといえます。

こうした動きが生まれた背景として、2つの変化を挙げることができます。一つは人材の減少です。以前は人が多かったので、ランク付けをして、優秀な人材を優遇し、評価の低い人材には退職を促すようなことが行われていました。しかし、昨今は経営の効率化を図るため、人数を少なく抑える傾向があります。そこで、一人ひとりの人材を貴重な財産(タレント)とみなし、丁寧な人材マネジメントを通じて企業の成果につなげていく方向に転換したのです。

もう一つは、ビジネス変化のスピードが速まっていることです。例えば、今日立てた目標が半年後も通用するとは限りません。そのため、状況の変化に応じて目標の修正を柔軟に行っていく必要があります。それを実現するには、MBOのような制度に縛られるのではなく、職場でマネジャーと部下がコミュニケーションを重ねながら、柔軟に対応していくことが求められます。