日本企業にも強い現場リーダーがいた

この動きは、そのまま日本企業にも当てはめることができるのでしょうか。

欧米のマネジャーは、人材を自部門の成果を高めていくためのリソースの一つとして捉え、人の成長と組織の成果を連動することを自らの責任として取り組む意識を強く持っています。一方、日本のマネジャーは、人材マネジメントを競争に勝つための原動力だと認識する傾向が弱いのです。効率化により、管理職に余裕がないのも大きな特徴です。

また、日本企業のマネジャーには、欧米のように部下の報酬や昇進などの処遇を決める権限がなく、手足が縛られています。こうした理由で、アメリカと同じように現場マネジャーによる人材マネジメントに頼ることが難しいのも事実です。

さらに、日本企業は規模が大きくなればなるほど、人を長期に雇用し、部門間でローテーションを行うなど、会社全体で人材を活用・育成する傾向があります。そのため人材マネジメントを企業全体の視点で行う必要が出てくるのです。アメリカのように人材マネジメントの大半を現場に任せることはとてもできません。

しかしながら、日本においても、現場のマネジャーによる人材マネジメントを強化する必要があることは間違いありません。日本企業にもかつては、NHKの番組『プロジェクトX』で描かれていたように、現場のリーダーが部下の心を躍らせ、モチベーションを高めて成長させ、成果を上げる環境がありました。その後、職場の効率化や成果主義が進む中で、現場のマネジャーによる人材マネジメントが困難になってしまいましたが、現場での人材マネジメントを再度高めることが、今回のアメリカ企業の動きから日本企業が学ぶべき重要なポイントだと思います。

人材マネジメントの基本は、現場におけるマネジャーと部下とのコミュニケーションです。アメリカ企業は、人事評価制度をやめることによって、現場の人材マネジメントを強化しようとしているのです。しかし、日本企業も同じように人事考課をなくせばうまくいくかといえば、そうとはいえません。前述の通り、マネジャーの人材マネジメントに対する意識や体制が異なり、また現場がスリム化して余裕がない分、制度がないとほったらかしになってしまう可能性があります。これらを踏まえると、むしろ人事評価制度を利用することで、現場のコミュニケーションを機能させることが期待できます。

現場リーダーが部下と向き合うときのポイント

例えばある企業では、ITを活用して人事評価制度を強化しています。面談終了後に上司だけでなく部下がチェックボックスをクリックしなければ終了とみなされないようにしたり、面談の満足度を計測したりすることで、上司と部下が納得感のある話し合いを行わなければならないような仕組みを構築しているのです。

もちろんマネジャーの意識改革は必要です。でも意識が変わるまでには時間がかかります。意識改革と同時に制度も活用しながら、現場でのコミュニケーションを高め、人材マネジメントを強化することが大切だと思います。

もう一つのポイントは、人材マネジメントに余裕を持たせることです。四半期といった経営のサイクルと人材マネジメントのサイクルを合わせようとする傾向がありますが、必ずしも合致させる必要はありません。人を育てることは時間がかかりますし、結果も見えにくく、MBOのような制度で評価できるものではないからです。もともと日本の人事考課は、人材の貢献度合いを総合的かつ長期的に評価していました。ところが、成果主義の導入によって短期の成果だけがフォーカスされ、他の部分が見落とされてしまったことが、現場の疲弊につながっているといえます。人材の貢献を、成果という一つの軸だけでなく、かつてのように多様な軸で評価することが求められます。

人材マネジメントの理想は、人材を個別に評価し、育成していくことです。また少数精鋭化し、組織のダイバーシティが高まるなかで、その重要性は高まっています。また、企業もグローバル化やグループ経営などで分散化が進み、従来のように本社の人事部が集中的に管理することは不可能になりつつあります。こうした環境変化のなかで、現場の人材マネジメントを強化することは、今後ますます重要になっていくはずです。

(構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)
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