遠隔診療システム「CLINICS」

【田原】メドレーはいま遠隔医療の「CLINICS」という事業をやっておられますね。これは何ですか。

【豊田】簡単に言うと、PCやスマートフォンのテレビ電話でドクターと話して、必要であればお薬がもらえるという遠隔診療のシステムです。これを使うと、患者さんは病院で何時間も待たなくていい。通院の負担も減ります。

【田原】これは誰からお金を取るの?

【豊田】医療機関側です。初期費用プラス月額利用料で、予約・問診・診察・決済などの遠隔診療に必要なすべての機能をご利用いただけます。いま導入いただいている医療機関は200を超えました。

【田原】患者側からすると、スマホで正確な診断ができるのか心配な部分もある。危険じゃないんですか。

【豊田】検査や診察が必要なケースは多いので、やはり遠隔でできる診断は限られます。そこは病院に行っていただくしかないでしょう。ただ、一方で、遠隔で十分なケースもあります。たとえば高血圧でお薬をもらっている患者さんは、これまで薬をもらうために2カ月に1度、数時間費やして診察を受ける必要がありました。これは遠隔診療と相性がいい。高血圧は痛くも痒くもなく、途中で病院に行かなくなる人も多いので、むしろ対面だけより通院継続率は上がると思います。

【田原】なるほど。途中で治療をやめてしまう患者も、通院の負担が減れば治療を続けるわけだ。これ、病院に行く場合と遠隔で受ける場合では、どちらが安いのですか。

【豊田】現在の制度だと患者さんは遠隔のほうが安く済みます。ただ、逆に医療機関は来てもらったほうが儲かります。それでは普及が進まないので、ドクターは予約料を患者さんからもらってバランスを取っています。

【田原】将来、普及はどのくらいまで進みますか。

【豊田】日本には医療機関が10万の開業医と8000の病院があります。このうち主なターゲットは開業医の先生のほうです。いま電子カルテの普及率は3割程度。電子カルテを導入していない先生がITを使った遠隔診療に関心を持つとも思えないので、開業医10万の3割、およそ3万のうちどれくらいの先生にやっていただけるのかなという規模感です。

【田原】海外展開はどうですか。

【豊田】したいですねえ。MEDLEYに症状を入力すると、可能性の高い病気を表示する症状チェッカーという仕組みがあります。アルゴリズムは病院で行う問診をもとにしています。これをもう少し進めて、緊急性の高いときはこうしましょうとか、その症状に対する汎用性の高い治療はこれですよといった判断までできるようになるとおもしろい。それを遠隔診療と組み合わせることで、いままで医者が少なくて20点くらいの医療しか受けられなかった人が70点の医療を受けられるようになるかもしれません。ベンチャーなので利益を生む必要はありますが、将来はそこまで広げていけたらいいなと。

【田原】なるほど。頑張ってください。

田原さんへの質問

Q.未来を正しく予測することは可能ですか

【田原】米大統領選では、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストもトランプ勝利を予想できませんでした。専門家が間違えたのは、自分の信じたいことを信じたから。トランプ勝利は、パックスアメリカーナの否定です。しかし専門家はパックスアメリカーナが永遠に続く、あるいは続いてほしいと思っていた。だから読み間違えたのです。

ブレグジットも、僕の信頼する政治家や学者、ジャーナリストはみんな「EU離脱は100%ない」といっていました。専門家でも間違えるのですから、未来を予測することは本当に難しいと思います。

大切なのは、事実を受け止めること。トランプ勝利が事実なら、専門家が間違えたのも事実。そのファクトに基づいて、あらためて未来を考えるしかないでしょう。

田原総一朗の遺言:事実を踏まえて、自分で考えろ!

編集部より:
次回「田原総一朗・次代への遺言」は、トーマツベンチャーサポート 事業統括本部長/公認会計士・斎藤祐馬氏のインタビューを掲載します。一足先に読みたい方は、1月23日発売の『PRESIDENT2.13号』をごらんください。PRESIDENTは全国の書店、コンビニなどで購入できます。
 
(村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)
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