なぜネット上の医療情報は間違ったものが多いのか
【田原】医療を知ることができる場所はないの?
【豊田】昔なら『家庭の医学』が家に一冊ありましたよね。いまはネットの時代ですが、残念ながらグーグルで検索して引っかかった情報が必ずしも正しいとはかぎらない。ウィキペディアでさえ9割の疾患について間違った記述があるという論文が発表されているくらいです。
【田原】どうして間違ってるんですか。
【豊田】ある治療法があったとします。本当はその治療法で大きな効果を期待できなくても、「治ります」と書いたほうがキャッチーだから、そう書いてしまうサイトがあります。あと、10年前以上の時代遅れの情報を書いて、そのまま放置されているページも少なくありません。ネットにはそういう無責任な情報が浮遊していますが、専門家ではない患者さんはそれを信じやすく、病院で医者が「違う」といっても、「いや、ネットにこう書いていました」といって、むしろ医者を疑ってしまう。これは患者さんにとって不利益になりかねません。
【田原】それで立ち上げたのが医療情報サイトの「MEDLEY」(https://medley.life/)ですね。具体的に、どのような情報を掲載しているのですか。
【豊田】医療現場で患者さんと接してる先生たちが100人いたら、95人ぐらいの先生がいう最大公約数的な言葉が集まっている場所をつくろうと考えました。病気の説明はだいたいどの先生も基本は同じで、先生自身も患者さんに対して何万回と同じ説明を繰り返しています。日本中で同じ説明が繰り返されているなら、その情報をネット上に置いて誰でも見られるようにすれば、患者さんもドクターもハッピーになれるんじゃないかと。
【田原】なるほど。
【豊田】イメージは医者がつくるウィキペディア。複数の医者に参加してもらうことで、中立性、最新性、網羅性の3つを担保しようと考えています。
【田原】中立性や最新性、網羅性のある情報をそろえるには、医者は何人くらい必要ですか。
【豊田】いまやっと500人を超えたところで、規模としてはまだまだ。診療科が約20あるので、1診療科100人として2000人はほしい。理想は5000~1万人です。
【田原】このサイトは、どうやって利益を出すのですか。
【豊田】MEDLEYはCSR的な面が強いので、そんなにがつがつマネタイズをしようとは思っていません。ただ、医療機器や製薬会社、病院など、患者さんに知っておいたもらったほうがいい情報は広告として掲載しています。たとえば熱い思いを持った先生を、薄く広くお金を取って紹介するような形ですね。
【田原】病院からお金をもらったら、中立性の部分はどうなるんだろう。
【豊田】正しい医療情報を伝える場所と、先生のインタビューなどは完全に切り分けています。だからそこは問題ないという認識です。
【田原】MEDLEYはいまどれくらい閲覧されていますか。
【豊田】詳細は非公開ですが、月に数百万人くらいの方が見てくれています。
【田原】DeNAのWELQというキュレーションサイトが怪しい医療情報をたくさん掲載していて問題になりましたね。しかも検索で上位にくるからPVも多かった。この問題、どうですか。
【豊田】医者の立場でいうと、医療情報をあのように扱ってほしくないなと心の底から思います。ただ、検索から消してもらうのは現実的に難しいでしょう。いまレストランを探すのはグーグルじゃなくて食べログだし、レシピはクックパッド。それと同じように、私たちが「病気のことを知りたいならMEDLEYだよね」といってもらえるサービスをつくっていくことで状況を変えていきたいです。
【田原】ところでMEDLEYのようなサービスはアメリカにもありますか。
【豊田】政府や、メイヨー・クリニックという有名な病院が運営している総合医療メディアはあります。ただ、MEDLEYのような医師が共同編纂する形のメディアはないです。
【田原】将来、世界に展開しますか?
【豊田】まだはっきりとした構想はないですが、各国でメドレーというプラットフォーム上に500~1000人のドクターが集まって、MEDLEY・アメリカとか、MEDLEY・インドネシアとかいう形で展開できたらおもしろいですね。病気や薬の種類は世界でほぼ共通なので、そこは横串を通しながら、各国特有の事情にも対応していくと、すごくいいものができるはず。日本できちんと回るようにすることが先ですが、いずれはやりたいです。