カルロス・ゴーンは「残業」をしているか

ただ、私が「24時間営業」を苦にしていないのは、自分の時間を自分で管理できる立場だからでしょう。私より忙しい人は、ほかにもたくさんいます。たとえば真っ先に思い浮かぶのは、日産とルノーのCEOを務めているカルロス・ゴーンさんです。私は一時期、ルノーの社外取締役を務めていたことがあり、ゴーンさんともたびたびやりとりをしました。私のメールには、即座に返信があります。いつ寝ているのかと驚きます。

どんなシーンでも毅然とふるまう「ゴーン流」 10月20日、三菱自動車との資本業務提携について記者会見する日産自動車のカルロス・ゴーン社長(左)。日産は燃費不正問題で経営危機に陥った三菱自に出資し、傘下に収めた。ゴーン社長は日産の筆頭株主である仏ルノー会長も務めているが、12月以降は三菱自会長も兼務する。(写真=時事通信フォト)

ゴーンさんは日産の社長になって今年で16年。日産だけでなく、ルノー傘下にある世界中の企業や工場の動向を把握しなければならない立場です。さらに12月以降には三菱自動車の会長にも就任される予定です。そんな激務を続けられるのは、仕事の優先度を自分で管理できているからでしょう。まわりに振り回されていれば、どんなに体力のある人でも倒れてしまいます。

私も、国会議員のときより、都知事のほうが、肉体的には楽になったと感じています。国会議員は、どうしても国会や委員会などの日程に振り回されます。また週末は、地元の選挙区で行われる祭りやイベントを駆け回ります。有権者の声を聞くことは大変勉強になるのですが、肉体的な負担は小さくありません。

都知事の場合、都議会を除けば、自分の時間は自分で管理することができます。特に週末は、政経塾「希望の塾」など、東京を軸にしたより大きな改革に向けて、時間を使うことにしています。私の力を最大限発揮できる場所はどこか。それを考えたうえで動きますから、「24時間営業」でも苦にならないのでしょう。

「仕事中心社会」では経済成長もおぼつかない

たとえ「残業ゼロ」であっても、まわりに振り回されるような働き方を強いられていれば、長続きはしません。都庁での「20時完全退庁」は、日本の働き方を変えるラストチャンスだという思いで指示を出しました。勤務時間が短くなれば、仕事の優先度は変わります。そのとき「ワーク」だけでなく「ライフ」を見直すことにもなるはずです。働き方改革は自分改革です。個人個人が自分の時間の使い方、つまり自分の人生の優先順位を考え直すことで、日本の社会も変わっていくのです。

「残業ゼロ」が実現すれば、余暇の時間が増え、消費のシーンを広げることにもなるでしょう。いまアベノミクスの一番弱いところは、「内需の拡大の遅れ」です。この急所をカバーする近道は、「仕事中心」という日本社会のあり方を変えることなのです。

小池百合子(こいけ・ゆりこ)
1952年生まれ。カイロ大学文学部社会学科卒業。テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』などでキャスターとして活躍。92年政界に転身し、環境大臣、防衛大臣などを歴任。2016年、東京都知事に就任。
(構成=藤井あきら 撮影=原 貴彦 写真=時事通信フォト)
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