戦略論、組織論、生物学、宗教学

一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 名和高司氏

企業を見る時、一番わかりやすいのがLのビジネスモデルです。まさに戦略論の範疇です。

それだけを見て、他社が真似することもできますが、本質的な強みを発揮できるところまで行けず、付け焼刃になることが多い。Eの組織力としてのコア・コンピタンスがビジネスモデルにふさわしいものになっていないからです。ここは組織論が扱う領域です。

その組織力を根底で規定するのが、Aの企業DNAです。組織の体質といってもいい。

DNAにも静的なものと動的なものの2種類があり、静的なDNAはその企業と運命のようにつながっていて、組織を一定に保つ役割をします。一方、動的DNAは自己破壊力を発揮し、組織の体質を変える働きをします。生物学的にいえば企業を進化させることができるのです。ここは生物学の範疇で、これを考察する経営学者はほとんどいません。

最後に来るのが志です。人間がつくり、率いる組織ならではの哲学であり、いわば宗教の世界です。自分たちの会社は何のために存在し、どこに向かって進んでいくのか。哲学者、宗教学者が扱う世界であり、ここに着目する経営学者もほとんどいません。

創業者がもっていた志がPの原点です。それが希薄化してしまうと、Aが駄目になり、それがEに悪影響を及ぼし、さらにLが壊れていくというプロセスを辿ります。それを呼び覚ますことができた人が中興の祖となります。アメリカのコダックとは対照的に、フィルムカメラの消滅という危機を乗り切った富士フイルム会長の古森重隆さんがそうでしょう。サラリーマン社長であっても、創業者が抱いた志を蘇らせることができるという好例です。