「弊社の商品は――」と説明し、「(だから)買ってください」と客を説得する営業マン。これでは売れないと『ドラマ思考のススメ』の著者、平野秀典氏はいう。
人は他人から説得されたくないし、今や商品の情報は自分で調べられるからだ。
「主語を売り手側の一人称ではなくお客様を主語にした二人称にして、お客様がどんなメリットや感動を体験できるか表現することが大切です」
そこで有効になるのが著書のタイトルである「ドラマ思考」だ。ドラマ思考とは、人生を一つのドラマであるととらえ、全体を俯瞰しながらステージを演出し、仕事も人生もハッピーエンドにしようとする思考法である。
能の世界に世阿弥が伝えた「離見の見」という表現の極意がある。客席で見ている観客の目で自分を見なさいという意味だ。この視点から冒頭の営業マンの売り込みを考えると、役者が観客を見ている視点にとどまっていることに気づく。セールスの現場でも客の心を動かす的確な表現や行動を考えられるというわけだ。
「ビジネスもエンターテインメントもお客様の喜びを生み出すアプローチは同じ。トップセールスと一流の役者は同じスキルを磨いているのです」
会社員時代、役者と二足の草鞋を履いていた平野氏は演劇の方法論を商品説明に持ち込んで大きな成果を挙げた。それが評判を呼び、「感動プロデューサー」という現在の仕事につながっていった。
「人生をドラマととらえれば、お客様は共演者。嫌な人もドラマを盛り上げるのに欠かせない悪役です。その人を避けたり我慢したりするのでなく、活かそうという発想になります。ドラマ思考は人間関係の悩みにも役立つのです」