道を追求してPを高めよ

L、E、A、Pのうち、最も重要なのが、Pです。いわば哲学とも言い換えられます。経営者が哲学を持っているかどうか、それが企業の強さを左右するんです。ただ、哲学といっても、カントやヘーゲルといった純粋哲学の知識が必要、というわけではありません。

ネスレのピーター・ブラベック会長はアルプスやヒマラヤにも足を伸ばすという玄人はだしの登山家です。いまだに生死の境をさ迷うような危険な登山をやっている。それだけの登山になると、チームで動きます。どんなメンバーで、どのくらいの装備を持参し、頂上アタックは誰がいつ行うか、天候不順の時はいつ撤退するか、すべて彼の判断にかかっている。これは経営そのものです。机上で哲学書を読むのではなく、彼は行動を通じて、哲学を学び、実践しているともいえます。

武道、茶道、華道、剣道など、日本には「道」の教えがあります。永遠に到達できないものに少しでも近づこうという世界です。ピーターは「登山道」を究めようとしているのです。物事を極め、自分の無力さを痛感する、こういった高質な経験を積まないと本物のリーダーにはなれません。

Pは内発的なものであり、外からどうこうしてつくり上げるのが非常に難しい。ではどうするか。

最近、GEが自社のバリュー(価値観)をビリーフ(信念)に変えるという取り組みを行いました。価値観は強調すればするほど、外から押し付ける形になりますが、信念は自分の中から湧き上ってくるもの。個々人にそれを内在化されることで、その人の行動原理にもなっていきます。GEはそれを狙っているのです。

これこそ、日本の得意な道の世界ではありませんか。日本企業は一番奥にあるPの部分が他国の企業よりしっかりしているはずです。そこにもっと自信を持ってほしい。