ホリエモンインタビューがきっかけで起業を決意

【田原】でも、大学を中退した。きっかけは何だったのですか。

【須田】成人式のあと中学の同窓会に初めて出席しました。すごくおもしろかったのですが、その晩、帰って寝ようとしているときに「あれ、成人式って人生に一度しかない。こんな楽しい日は二度とないのか」と気づいて、はじめてリアルに将来とか人生のことを考えたんです。

【田原】具体的に何を考えたの?

【須田】人間の平均寿命は80年。その間、五感を通じて様々なデータを脳みそに溜めていきますが、そのデータベースも死ねば脳が腐ってなくなってしまいます。そう考えると、人が生きていることに大して意味はないんだなと。ただ、価値がないなら自分は死ぬかと言えば、やっぱり死ぬのは怖くて生きていたい。どうせ生きるのなら、お気楽に過ごすのではなく、地球に爪痕を残せるようなことをしたい。そこで出た答えが「起業」だったんです。

田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。若手起業家との対談を収録した『起業のリアル』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【田原】地球に爪痕を残すのは起業以外でも可能です。どうしてそこで起業だったんだろう。

【須田】地球に爪痕を残すなら、世界一にならないといけません。僕は音楽が好きで、自分でつくった曲で雑誌の賞をもらったりしていましたが、さすがに音楽の領域で世界一になる自信はない。陸上競技はもっとダメ。要するに、僕個人の才能では世界一は無理だという結論にならざるをえませんでした。では、どうすれば才能のない自分でも世界一になれるのか。そう悩んでいるときにテレビで堀江貴文さんのインタビューを見まして、これだと。

【田原】どういうこと?

【須田】それまで僕の中で社長は50~60代のイメージがあって、会社経営は人生の選択肢に入っていませんでした。でも、30歳前後で活躍している堀江さんを見て、若い人でも社長はできるんだと気づきました。しかも、会社経営は僕自身が世界一でなくてもいい。すげえやつらを集めて、その会社を世界一にすれば、地球に爪痕を残せるじゃないかと考えたのです。そこからは、すべて起業のために行動しようと思いました。とりあえず営業力を鍛えようと、NTT西日本のインターンシッププログラムに参加して光回線を売ったり、友達と一緒にホットペッパーのようなケータイ版サービスを立ち上げてみたり。1日でも無駄にしたくなくて、大学も中退しました。

営業成績トップを取った後、起業準備

【田原】中退して、まず何をしましたか。

【須田】起業前にまずは、会社はどうやって運営されているのかを学ぶためと、創業資金を貯めるために、就職活動を始めました。転職専門サイトで見つけたITの人材派遣会社に入りました。当時、最年少の営業担当でしたが、めっちゃ頑張って成績トップになりました。100社くらい販売チャネルを開拓すれば満足する人が多いのですが、僕は1000社ほしいと思って、ひたすら電話をかけまくっていました。当時は週に3日は会社に泊まってたかな。ただ、その会社は1年で退職しました。3年で1000万円貯める計算で入社したのですが、途中で給与体系が変わり、それが難しくなってしまって。

【田原】やめてどうしたの?

【須田】当時はまだ自分がどのような事業をやりたいのかわかっていませんでしたが、人材派遣のビジネスモデルはわかったので、とりあえず人材派遣業で起業して、あとはやりながら考えようかなと。1年で300万円は貯まっていたので、それを開業資金にして、当時の部下と2人で会社を立ち上げました。それが株式会社フリープラスです。

【田原】人材派遣はうまくいきましたか。

【須田】1年目は。売上は1.9億円で、初年度から黒字でした。ところが、2年目にリーマン・ショックがありまして、いくら営業してもどうにもならない状態に。魚のいない釣り堀に糸を垂らしているような感じで、毎月赤字に転落。新たに借金しなければ、あと数カ月で会社がつぶれるところまでいきました。

【田原】そのピンチはどうやってしのいだのですか。

【須田】起業3カ月目に入ってきてくれた友人を近所の公園に呼び出して相談しました。そうしたら、「会社がつぶれるなんて社長が言ったらダメ。いまのコストはほとんど人件費。給料カットしてみんなでバイトしましょう」と言われまして。人がこうやって人生懸けて働いてくれているのに、自分は借金の連帯保証人になることにびびって会社を畳むことも考えてしまっている。これは情けない、ちゃんとリスクを背負ってやり切らなきゃいけないと考え直して、事業を続けました。もっとも、人材派遣業は行き詰まっていたので事業はSEOにシフトしましたが。

人材派遣業→SEO→旅行業と事業を変えた理由

【田原】SEOって何ですか。

【須田】検索エンジン最適化です。たとえばある旅行会社が旅行商品をインターネットで販売するとき、GoogleやYahoo!の検索で1ページ目に表示されるかどうかで売り上げは天と地ほど変わってきます。そこで検索サイトの上位に表示させるために、Webサイトを改善して最適化する仕事です。

【田原】SEOはうまくいった?

【須田】はい。当社はいま9期終わりましたが、唯一赤字だったのはリーマン・ショックの2期目だけ。3期目からは黒字に戻り、会社を畳まずに済みました。

【田原】うまくいったのに、そこから旅行業に変わったのですか。

【須田】SEOでは世界的企業にはなれません。なんとか安定的に収益をあげられるようになったので、いよいよ自分の人生をすべて捧げてもいい事業をやろうと。