最初から世界を相手にできる事業をやりたかった

【田原】そこで聞きたい。世界一になれる事業として、どうして旅行業を選んだのですか。

【須田】やりたい事業の条件は3つありました。まずBtoCであること。マクドナルドでバイトしていたとき、僕が勝手に「コーヒーおじさん」と呼んでいたお客様がいました。おじさんは近所でCDショップをやっていて、毎日、開店前と閉店後にやってきてブラックコーヒーを注文されます。ある日、元気がないので、いつも以上の笑顔でコーヒーをお渡ししたら、少し喜んでくれた気がしたんです。このとき僕は、はじめて自分が提供している価値は、コーヒーというより心なんだと気づきました。その経験から、人と人が触れ合うことによって人々が幸せになれる事業、つまりBtoCのビジネスがやりたいなと。

【田原】ほかの条件は?

【須田】2つ目は、いきなりグローバル展開できること。大阪のベンチャーが世界企業になろうとしたら、普通はまず東京に出て、名古屋、福岡、北海道という順で進出していくことが多いのですが、その通りにやっていたらどんどん年を取ってしまう。それは嫌なので、最初から世界を相手にできる事業がやりたかった。そして最後の条件が、日本を元気にできる事業であること。当時、日本は中国にGDPをもうすぐ抜かれるというところで、お家芸だった電気製品も韓国勢に持っていかれていました。そのことが歯がゆくて、僕らの世代がもう一度日本を元気にしなきゃいけないと思っていました。

【田原】つまり、BtoC、グローバル、そして日本を元気にする。これらの条件を満たしたのが、インバウンドだったと。

【須田】はい。2003年の小泉政権のときからビジット・ジャパン・キャンペーンが始まっていて、観光立国は国策にもなっていました。確実にマーケットは伸びるし、観光を通じてみなさんに幸せをプレゼントできたら最高やん、と思いました。

須田さんの夢を応援したい

【田原】旅行業への転換はうまくいったのですか。

【須田】2010年の10月から始めました。プランはお金をかけずに無限につくれるので、やらなければいけないのは営業です。最初に狙いをつけたのは中国でした。中国語を少しだけ話せるので、日本から北京や上海の旅行会社に電話して、まずは日本語か英語を話せる人を探して、見つかったらアポを取って中国に飛びました。

【田原】それで会ってくれるの?

【須田】ほとんど門前払いでした。でも、北京の旅行会社の担当者の方が1社、話を聞いてくれました。じつは中国の方が日本に観光に来ると、中国人が経営している悪徳免税店に連れていかれてニセモノをつかまされるケースがあります。そうした経験を通して日本が嫌われるのは悲しい。だから僕たちにプランをつくらせてくれと説いたら、「須田さんの夢を応援したい」と言ってくださいました。

【田原】それが初仕事?

【須田】日本に帰国後、中国から京都に何人か行くから、小型バスを手配してほしいと頼まれました。とりあえずネットでバス会社を調べて連絡したら、料金は10万円と言われました。そのまま中国側に伝えると、「高い。バス会社を教えるから、そこに連絡して。料金は5万円のはず。そこに須田さんの利益を乗せて、こちらに請求してください」と教えてくれて。よく考えたら、その人はぜんぶ自分で手配ができるんですよ。それなのに僕らのためにあえて仕事をつくってくれた。中国に行くというと、「気をつけろ。中国人に騙されるぞ」と忠告してくれた人がいましたが、全然そんなことはなく、むしろ大いに助けられました。

本格始動のタイミングで東日本大震災が……

【田原】なるほど。そこからは順調に拡大したのですか。

【須田】いえ、バスの手配が2011年1月で、初ツアーの仕事が2月。いよいよこれからという3月に、東日本大震災が起こりまして。

【田原】あの時期に訪日する外国人はいなかっただろうね。

【須田】ただ、ピンチはチャンスだととらえることにしました。訪日観光が止まったのは事実ですが、一時停止なのでいずれまた戻ってきます。その間にマーケットを開拓しようと、東南アジアに営業に行きました。一方、日本のホテルも空き室ばかりで、無名の僕らでも簡単に部屋を確保できた。その結果、翌年は取り扱い訪日客数がいきなり550人になりました。観光業が苦しい時期に頑張って送客したことがホテル側でも評判になって、その次の年は5000人、さらに次は2万5000人に増えました。

【田原】まさに急成長ですね。ツアーガイドの確保はどうですか。いまインバウンド業界全体で人手不足ではないのですか。

【須田】僕らはSEOをやってるので、「ツアーガイド募集」でグーグルでネット検索すると3位以内には入ります。ちなみに「訪日旅行」って検索したら、うちが1位で、観光庁よりも上(笑)。おかげさまでインターネットからの登録は毎週のようにあります。かつ育成にもお金をかけているので、人材面では強みがあると思います。