ただ、掃除をすればすぐにいい影響が出るというほど甘くありません。教育の神様といわれた森信三先生は、「教育とは流れる水の上に文字を書くような儚いものだ。だが、それを岸壁に刻み込むような真剣さで取り組まなくてはいけない」と言っています。掃除のすばらしさも、簡単には伝わりません。辛抱をして、粘り強くやっていくことが肝要です。

掃除をして世の中に少し反応が出てきたのは、始めて30年経ったころでしょうか。それまでは無関心な人がほとんどでした。ある大学教授からは「掃除は経営者の仕事ではない。掃除は社員にやらせて、もっと経営者らしい仕事をしろ」とまで言われました。その考えには、いまでも納得できません。社員は就業規則に従い動くのではなく、会社の社風に沿って動きます。社風が悪い会社では手抜きが横行するし、逆に社風が清廉な会社だと、社員もそのように動く。その社風をつくるのは経営者の役目です。だから、社長自らトイレ掃除をして、何が悪いのかと。

社外の人から「掃除のやり方を教えてほしい」と声がかかるようになり、少しずつ輪が全国に広がり、いまに至っています。1回の掃除では何も変わりませんが、積み重ねることで信頼に変わっていく。掃除には、そんな力があると信じています。

▼掃除で信頼されるには?

×口だけもっともらしいことを言う――「今日は眠いから明日にしよう」など言い訳をする
 ↓
実際に行動し、積み重ねる――すぐに影響は出ないが、続ける姿にまわりが変わってくる
×押しつけられた仕事としてこなす――普段やるべきことをやらない人間が掲げるのは目標ではなく欲望
 ↓
目標や目的をもつ――自分の中から出てきたものこそ、辛くても耐えられる
イエローハット創業者、NPO「日本を美しくする会」相談役 鍵山秀三郎
1933年生まれ。53年デトロイト商社入社後、61年ローヤル(現イエローハット)を創業、社長就任。98年、同社相談役に。創業以来続けている掃除に多くの反響があり、現在も掃除を続けるかたわら全国で講演活動を行う。『凡事徹底』など著書多数。
(村上 敬=構成 石井雄司=撮影)
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