冬は辛いですよ。朝早く、ふるえるような寒さの中で掃除をするのは、何年も掃除している私にとっても、けっして愉快なことではない。ところが、今日は眠いからといってやめてしまうと、「あいつはやっぱり口だけだ」となってしまう。昨日までやってきたことを無駄にしないためにも、継続することが大切です。

ただ、掃除はあくまでも目的・目標を実現するための方法であることを忘れてはいけません。私は社員にいい人間になってほしい、社会、国をよくしたいという願いを込めて、掃除をしています。このように目的が定かなら、それを実現するための手段・方法は自分の中から湧いてきます。私にとって掃除は、人から押しつけられたものではなく、自分の中から出てきたものだからこそ、辛くても耐えられるのです。

(左)イエローハットの創業者でありながら、そのかたわら60年間トイレ掃除を実践し心を磨き続ける。(右)2014年1月4日の午前6時、目黒区の菅刈公園に集合した「日本を美しくする会」メンバーと近隣住民で恒例の清掃が行われた。

多くの人が欲望と目標を勘違い

では、目的や目標はどこから生まれるのか。日常でなすべきことをきちんとやれば、自然に見えてくると思います。普段やるべきことをやっていない人が掲げるのは“欲望”です。多くの人が挫折してしまうのも、自分の欲望を目的・目標と勘違いしているからではないでしょうか。

そもそも私が掃除を始めたのは、いまから約60年前です。自動車用品の商社に勤めていましたが、当時は業界全体が荒んでいて、社員やお客さんの言葉遣いが粗暴でした。悪しき習慣を変えないといけないと思って掃除を始めたのです。最初はずいぶん先輩からいじめられました。それでも粘り強く続けていたら、客層が変わってきて、それまで寄りつかなかったスポーツ選手や歌手が来るようになりました。

独立後は、さらに掃除に力を入れるようになりました。昔は慢性的な人手不足だったので、社員を募集しても、いろんな会社を転々としてきたような人ばかりやってきます。そうした人たちはルールを守るとか物を大事にする意識が薄く、営業車でよく事故を起こしました。そこで始めたのが車の掃除です。うちではみんなで一台ずつ、流れ作業できれいにしていきます。このやり方がよかったのか、事故は激減しました。

営業車がきれいになると、車の停め方から客先での態度まで、社員の行動が一つ一つ変わってきます。それを見たお客さんも、「あそこの社員は違うね」と言ってくれるようになる。そうやってイエローハットは少しずつお客様から信頼してもらえる会社になっていったのです。