経理はどのように経費チェックをしているか

ただ、経理規定は文言だけを読んでいると無味乾燥なものに思えてくる。ここでは実際に経理担当者がどのように経費をチェックしているのかについて述べてみたい。

ある会社の経理部で「ミスター領収書」という異名を持つベテラン社員がいた。彼の一日は、厚さ10センチを越える冊子を書庫から自らのデスクに運ぶことから始まる。ほぼ一日中書類とにらめっこする毎日だ。彼はとにかく半端ではないスピードで書類をめくる。一枚一枚が宙に舞う感じで、その速さたるや近くで見ていた新入社員は本当に中身を見ているのかと疑ったほどだ。

しかし突然彼の手が止まる。ある箇所をじっと見つめて、さっと付箋を張りつけて何かを書きつける。終われば、またすぐにリズムよく書類をめくりはじめる。こなす仕事量も多く、現場の担当者に対する指示や照会内容も簡潔でわかりやすいという。

彼はなぜそれほど早く書類に目を通すことができるのか、なぜ突然手が止まるのであろうか?

ベテラン経理担当者の頭のなかには問題のない定型パターンが蓄積されている。「その枠組みのなかにさえあれば、どんどん読み進めることができる」と語る。ポイントだけを見れば判断できるのである。

一方で、その枠組みから外れるか、グレーゾーンにある事例に遭遇すると手が止まる。

会計上や税務上の誤りと判断すれば、伝票を作成した担当者に照会や指示をする。疑わしい経費の支出を繰り返している社員がいると、彼の視線は、書類からその背景にいる当該社員に移る。そういう「課題」のある社員をリストアップして重点的にチェックしている会社もあった。この辺りについては次回以降の連載のなかで述べていきたい。

この経理担当者がいう枠組みは、結果的には経理規定や社内ルールに集約されているのである。