それは「対岸の火事」ではない!

1つは「リモートワーク」の浸透です。最近は大手企業の中でも在宅勤務を認める動きが広がっています。介護や育児などでフルタイムでの職場勤務が難しい人をも貴重な労働力として取り込んでいくためにも、こうした働き方は今後一般化していくでしょう。そして、「職場にいない」という状況が日常になると、同僚や取引先とランチや飲みに行く機会は激減するかもしれません。

そしてもう1つは「VR(バーチャルリアリティ)」です。2016年は「VR元年」とも言われていますが、今後この技術は急速に実用化されていくことでしょう。すると同じ場にいなくても、あたかも一緒にいるように感じられる環境がつくられていきます。そうなっても「人はわざわざ店に集まるのか」という根本的な問題について今後真剣に考えざるを得ません。

ここまで書いたようなことが実際に起こっていくと、どんな未来が待っているでしょう。コンビニのバックヤードに設置された超高性能調理マシンでつくられたおいしい弁当が、ドローンや無人運転の車で自宅まで届けられる「ハイパーデリバリー」。世界各地に点在する友人と、まるで同じ場に集まっているかのようにお酒が楽しめる「オンラインVR飲み会」。こうしたシーンは、もはやSFの世界と笑い飛ばすことはできなくなりそうです。

私は「飲食店は消滅する!」などと無闇に危機をあおりたいわけではありません。そして将来的に飲食店がなくなることはおそらくないでしょう。しかし、10年後、20年後に今のような市場規模で、そして現在のような形態で外食産業が存続しているとは思えません。

市場規模24兆円という巨大な外食産業に携わる人たちは、テクノロジーの進化を自分とは無縁の世界と遠巻きに見るべきではありません。この急激な変化は、遠くない将来に自らの店に多大な影響を与える可能性が高いということを、一度真剣に想像する必要があるはずです。

子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食プロデューサー。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/

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