長期的にはタカ派のほうが国際平和に貢献

ここで、軍拡を例にとって、ゲーム理論的に考察してみよう。

隣り合う二国が、お互いに対抗しようと、軍備の増強を続けている。

それぞれの国の選択肢は二つ。第一は、相手を信用して軍拡をやめること。第二は、相手を信用せずに軍拡を続けることである。

もし両国が、共に相手を信用して軍拡をやめれば、両国とも軍事費を節約でき、かつ地域の平和も保たれる。これは双方にとってベストの解(協力解)である。

もしどちらか一国が軍拡をやめ、もう一国が軍拡を続けたとすれば、軍拡をやめた国は軍事費を節約できるが、相手国との間に軍事力で大差がつく。ここで相手が戦争を仕掛けてきたら、軍拡をやめた国には悲惨な結果が待っている。もし両国が共に軍拡を続けたとすれば、両国とも増加する一方の軍事費の負担に苦しむだけでなく、二国間の緊張が続く。

このようなケースでは、一方だけが軍拡を放棄して戦争が起きた場合の代償が大きいため、「両国が共に軍拡をやめない」という選択に向かう可能性が高くなる。

このようなゲームの利害構造は、「囚人のジレンマ」というシナリオとともに知られており、当連載(http://president.jp/articles/-/17287)でも紹介した。2人の共犯者がいて、別々の部屋で尋問されている。2人がどちらも黙秘(協調)すれば、双方が軽い罪を受ける。1人が黙秘し1人が密告(裏切り)すれば、黙秘した囚人は重い罪を受け、密告した囚人は罪を許される。結局、両者とも相手を裏切ってしまう可能性が強い(図1)。

図1「囚人のジレンマ」

米ソの冷戦も、そうした経緯を辿った。ところが1980年代半ばに状況が一転した。旧ソ連の新しい指導者ゴルバチョフ書記長とレーガン米大統領(いずれも当時)が、互いに軍拡を停止することに合意したのである。両者の仲介を行ったのは「鉄の女」サッチャー英首相であったという。

一方の行動を、信頼のないところから信頼に基づくものにするような戦略を、ゲーム理論では「トリガー戦略」と呼ぶが、それはどうすれば形成が可能となるのだろうか。