ゲームには、プレーヤーが行動を1回選択しただけで終了する1段階のゲームと、繰り返し選択がなされる多段階のゲームがある。現実の社会では、多くの場合繰り返しゲームが行われている。

米国ミシガン大学の政治学者ロバート・アクセルロッドは、ゲーム理論学者、社会科学者などを集めて80年にコンピュータ・プログラムを用いて、「囚人のジレンマ」を、総当たりで繰り返し戦わせるコンテストを行った。

いつも相手の言うことに従っているプレーヤーが、不利な状態になることは明らかであろう。しかし、いつも強硬に協力を拒むプレーヤーも、相手との協調の利益が得られないので長期的にはうまくいかない。

このコンテストで優勝したのが、心理学者アナトール・ラポポートによる、「しっぺ返し(Tit for Tat)」戦略を採るプログラムだった(図2)。

図2 囚人A「しっぺ返し戦略」の一例

同戦略では、最初の対戦では「協調」を選択する。2回目以降は前回の相手の行動と同じ行動を採る。つまり相手が前回、協調してきたならこちらも今回は協調し、相手が裏切ったなら同じく裏切るものとする。

相手が協力的なら、もとより協力してまずはフレンドリーに接するが、相手が戦いを仕掛けてくるようなら、タカ派に変身してガツンと叩く。相手が協調しないならば、その代償は大きいぞということを示して、相手を好むと好まざるとにかかわらず協調行動に導こうとする戦略が功を奏するのである。相手の心根を変えて信頼関係を築くのではなく、当方を信頼しないと困ったことになるぞと協力を必然化させるのである。

タカ派の政治家のほうが、長期的にはかえって国際平和に貢献するという事実には、このような理論的裏付けもありうる。安倍首相のぶれない姿勢が、逆に各国首脳の態度を軟化させるように見えるのも、このような事情によるのかもしれない。