販売店に「面倒みる」「大三菱」という甘え

背景にあるのは益子氏の深層心理に刷り込まれているであろう「大三菱」意識だ。記者会見での次の発言にもその一端が覗いている。

「(日産による出資は)自然な流れで異常な事態ではない。信頼回復や経営安定を目指す上で重要な道筋だ。三菱グループから支えてもらう構図は変わらず、ディーラーも責任を持って面倒をみる」

資本の論理で言えば日産の傘下に入ったにもかかわらず、相変わらず「三菱グループの支援」を口にし、自社の不正で迷惑をかけているディーラーに対して「面倒をみる」と言い放った。売ってくれる人がいるからメーカーの経営が成り立つのである。自動車業界出身の人間なら、決してこうは言わないはずだ。

益子氏は三菱自動車の生え抜きではない。出身は三菱商事だ。三菱自動車が「リコール隠し」で存続の危機を迎えた2004年に常務取締役として送り込まれた。

この時、三菱自動車の隠蔽体質に辟易した提携先の独ダイムラー・クライスラーが追加支援を中止し、それに代わって三菱重工業、三菱商事、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)が増資を引き受けた。

「三菱を名乗る企業が倒産することがあってはならない」というのが三菱グループの掟である。自浄能力を失った三菱自動車を立て直すため、三菱自動車のルーツである三菱重工から西岡喬氏が会長として乗り込み、益子氏は社長になった。

あれから10年。三菱グループに庇護された三菱自動車は、結局、隠蔽体質を克服できず、同じ過ちを繰り返した。そして今度もまた「日産に守ってもらえる」と思っているのかもしれない。益子氏の笑顔は、三菱自動車の「甘え」を象徴しているように私には見える。

※1:同時に役員報酬の減額も発表。7月以降の月額報酬を会長が6カ月間40%減額、社長は同30%減額。15年度の賞与を代表取締役と取締役は辞退し、専務役員と常務役員は50%減額とした。
※2:5月18日には相川哲郎社長、中尾龍吾副社長の退任を発表。益子修会長は会長に留まるが、役員報酬を全額返納する。また6月17日には役員と執行役員の月額報酬を次の比率で自主返納すると発表した。開発担当常務執行役員6カ月20%、開発担当執行役員同10%、その他の役員3カ月10%。

(時事通信フォト=写真)
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