鈴木会長は燃費測定方法の不正が発覚した直後から、記者会見に出て頭を下げ続けた。一方で「燃費は再確認した。カタログ値と比較したが、まず間違いはない。購入者に迷惑を掛けることはない」と、消費者を欺く意図がなかったことを強調した。

もちろんスズキに非がなかったわけではない。欧州では部品ごとに燃費を測り、これを積み上げて車の燃費とみなす方法が認められている。日本では認められていないやり方だが、2010年ごろにスズキの新車開発部門の一部が「日本でも使ってよいだろう」と判断した。

スズキのテストコースが風の強い海沿いにあり、実際に車を走らせて計測するとデータがばらつくため、この測定方法が他の部門にも広がっていった。担当者は違法性を認識していたが「惰性でやっちゃった」と鈴木会長は説明した。

その上で鈴木会長は、野外で安定的に走行データを取るために、試験を行っているテストコースに防風壁を設置したことを明らかにした。不正の発覚から半月での早業である。

一連の対応を株式市場はどう受け止めたか。スズキの株価は不正が報じられた5月18日から売り浴びせられ、一時は2450円の年初来安値を付けた。しかし19日に早くも2705.5円に戻す。国交省に社内調査結果を報告した翌日の6月1日には前日比106円(4%)高の2955円まで上昇。終値は2920円50銭で、燃費不正問題が明らかになる直前の水準を回復した。

起きたことを認めて反省しつつ、主張すべきは主張する。その姿勢は2010年、リコール問題で米議会の公聴会に召喚されたトヨタ自動車・豊田章男社長のスピーチに通ずるものがある。

豊田社長は「世界で販売されるトヨタ車には私の名前が刻まれている。車が傷つくのは私の体が傷つくのと同じ」と語り、米消費者の信頼を勝ち取った。

スズキも難局を乗り切ったことで会社全体が一枚岩になり、鈴木会長の後任CEOになる鈴木俊宏社長への権限委譲が進むかもしれない。