東京に出てリノベーション事業を始める
【田原】東京? 最初に大阪でやって、軌道に乗ってから東京に進出したわけじゃないんですか。
【山下】水に物を落としたときにできる波紋は、大阪より東京のほうが大きい。人生1回きりですから、同じ時間を投資して大きな勝負をするなら、やはり東京だろうと思って1人で出てきました。
【田原】大阪の事務所はどうしたんですか。
【山下】当時、20人くらいスタッフがいたかな。僕が東京に行くといったら、みんなわれ先と手を挙げて、誰を連れていくのか迷う状態になるのかなと思っていました。でも、東京進出宣言をした途端、全員、下を向きました(笑)。たぶん理由は2つです。1つは、リノベーションに可能性を感じていなかったから。そしてもう1つは、大阪の人は地元愛が強くて上京を嫌うから。僕も大阪人なので、気持ちはよく分かります。結局、大阪の事務所はそのまま残して、単身で東京に行きました。
【田原】東京に行って、まず何をした?
【山下】一緒にやってくれるパートナー企業を探しました。興味を持ってくれた人を約10人集めて説明会をやったのですが、大阪のときと同じで、ほとんど誰も乗ってくれませんでした。みんな最初は「面白そう」といってくれるのですが、コミットするというか、自分の時間やお金を投資するというところまではいかなくて。唯一、残ってくれたのが、いま副社長をしている大森章平だけでした。
【田原】大森さんというのは、どういう人ですか。
【山下】飲食店コンサルティング会社に勤めていたコンサルタントでした。僕はBtoBの交渉に慣れていなかったのですが、彼は経営者相手にコンサルタントをしていた豊富な経験がある。だから一緒にタッグを組んでやりませんかと誘いました。当時、彼がオファーを受けてくれた理由はお客様の間近で「ありがとう」の言葉が聞ける仕事に魅力を感じて決めたと聞いています。
【田原】2人でリノベーション事業を立ち上げますが、どのようなビジネスモデルを考えていたのですか。
【山下】不動産事業をやるつもりはありませんでした。デベロッパーは土地を取得して、建物を建て、利益を乗せて売る事業ですが、これをやるには桁違いの莫大な資金が必要で、できるのは財閥系や鉄道系の大きな会社くらいのものです。リノベーションも同じです。中古物件を購入して工事をしてから売るというモデルでやると、在庫が発生します。それを規模の小さな会社がやると、経済環境のちょっとした変化ですぐ破綻してしまう。僕らのような会社には無理です。
【田原】じゃあ、山下さんはどんなことをやろうとしたのですか。
【山下】お客様とパートナー企業を引き合わせるマッチング事業です。たとえば不動産会社とパートナー契約をしていただいて、パートナーが持っている中古マンションの情報をサイトに掲載します。そこでお客様に結びつけて、さらに設計事務所や工務店のマッチングも行います。いわばリノベーションのプラットフォーム。不動産事業がバランスシートで勝負するビジネスモデルだとしたら、僕たちがやっているのは情報量で勝負するビジネスモデルといえます。
【田原】なるほど。だからパートナー企業が必要なわけか。
【山下】はい、今日最初にご挨拶したときにお渡しした名刺がありますよね。弊社の名刺はジグソーパズルのピースの形をしているのですが、さまざまなところとつながって1枚の大きな絵を完成させようという意図で、その形にしています。