記憶力と判断力は、どちらも仕事には欠かせない力。これらが欠けると、アポイントの時間を間違えるなど、うっかりミスが起こりやすくなる。睡眠を十分に取ればそうしたミスを防げて、頭も冴えるというわけだ。

それだけではない。寝不足で前頭葉の働きが鈍れば、脳のワーキングメモリーまでダメージを受けることもわかっている。ご承知の通り、ワーキングメモリーはマルチタスクに欠かせない機能だ。プレゼンの資料を作りながら取引先に連絡を入れるなど、いくつもの業務を段取りよくこなすためにも欠かせないのが睡眠なのである。

「記憶については、一時的な短期記憶を長期記憶に移し替える処理が睡眠中に行われるとも言われています。たとえば、英会話を勉強中の人なら英単語を夜に覚えてよく寝たほうが、身につきやすいといえますね」

ちなみに、楽器やスポーツのように体で覚える運動記憶も、やはり睡眠を取ることで働きが維持できる。アスリートがことさら睡眠にこだわるのは、酷使した体を休める以上の意味があるのかもしれない。

仕事で斬新なアイデアが欲しいときも、徹夜で頭をひねるより睡眠を取るほうが有効だと西多さんは言う。

「数学的なひらめきが必要なパズルを被験者に解かせる実験では、朝に問題を見せて考えたグループや夜に問題を見せて徹夜で考えたグループより、夜に問題を見せて睡眠を取ったグループが最も優秀な成績を出したと報告されています。また、日中の1~2分の仮眠によって、ひらめくこともある。浅い睡眠では潜在意識が自由に働くからではないか、と考えられています」

ひらめきを得るには情報のインプットなどの努力も不可欠だが、どうしてもアイデアが浮かばないなら寝てしまうという選択は“あり”なのだ。