新型肥料の難題「粘り強く」で突破
40代に入る前後の1990年代初め、北九州市にある黒崎工場のアンモニア工場で、生産の増強を図るグループのマネジャーとなり、プロジェクトを4つ、立て続けに指揮した。黒崎は玄界灘を臨み、魚介類が美味しく、いきつけだった店はいまでものぞく。入社以来、米国勤務を挟んで20年余りいて、多くのことを学び、たくさんの部下たちを育てもした。
92年4月に開始したのが、尿素を樹脂膜でコーティングして、粒子状にした稲作向け肥料の開発だ。コメの収穫には穂が大きく育つ必要があり、田植え後に肥料を撒くと、やがて穂が出る。それを大きくするには、いったん肥料を断つ。すると、勢いよく伸びる。ただ、そこで追肥しないと、米粒が大きくならない。だから、肥料を2度まかねばならず、高齢化が進む農家にとって負担が大きい。
そこで、水田に撒くと、従来のようにすぐには溶けて流れ出ず、時間をかけて効いてくる製品を狙った。できれば、田植え期にすぐに溶けるものと一緒に撒けば、一度で済む。肥料を薄い樹脂膜で包み、時間がたつと膜がはじけるようにすればいい、と考えた。
プロジェクトの担当者に、農薬部門にいた入社7年目の若手を起用した。だが、開発は悪戦苦闘する。実験装置は、厚さ数十ミクロンのフィルムを網状にしてぶら下げ、尿素を落とし、下から風を送って粒子に包んでいく仕組み。ところが、「何度やっても、うまくいかない」との報告が続く。