正当な賃金差、正当でない賃金差の境界線
年功序列賃金が浸透している日本では、経営側に限らず労働側もこの仕組みを良しとしている。
法改正後の裁判によって、
「年功序列賃金は同一労働同一賃金に反する」
「非正規社員も正社員と同じ年功序列で処遇すべき」
という判決が下れば大変だという意識が経営・労働側にあるだろう。
事実、国民会議の議員である三村明夫日本商工会議所会頭は次のようにと不安を口にしている。
「たとえば合理的理由の立証責任が、企業側のみに課せられる。とすれば、現場に大変な混乱を引き起こすことになります。たとえば終身雇用、年功序列との関係をどう整理するのか」
▼終身雇用・年功序列との関係は?
これに関して水町教授は欧州の裁判例を示し、こう答えている。
「欧州でも、労働の質、勤続年数、キャリアコースなどの違いは同原則(同一労働同一賃金名)の例外として考慮に入れられている。このように、欧州でも同一労働に対し常に同一の賃金を支払うことが義務づけられているわけではなく、賃金制度の設計・運用において多様な事情が考慮されている」(2月23日国民会議提出資料)としている。
ヨーロッパの裁判でも学歴・資格、勤続年数や総合職などのキャリアコースの違いによる賃金差を認める判決が出ているので安心してほしいと言っている。
じつは経済界のこうした不安を受けて安倍首相も「どのような賃金差が正当でないと認められるのかについては、政府としても、早期にガイドラインを制定し、事例を示してまいります」(議事要旨)と発言している。
その結果、3月23日からガイドラインに関する政府の「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」がスタートしている。
合理的理由の範囲を示すガイドラインがどうなるのかわからない。経済界が要望するような勤続年数や年功序列、総合職などのキャリアコースの違いによる賃金差を合理的理由に含める可能性もある。
しかし、政府のガイドラインは法律ではない。しかも民事訴訟で争われる以上、裁判所がガイドラインに拘束されることはない。政府がフランスではこうなっているからという立派なガイドラインを作っても裁判所にこれに従えという権利はない。裁判官にしてみれば余計なお世話だと言ってもおかしくないのだ。
初の同一労働同一賃金原則の導入となる日本で、いったいどういう法律になるのか、ガイドラインがどういうものになるのか注目するべきだ。