いわゆる「縁故入社」。今もしっかり存在し、その形態は様々に変化。取引先の娘を「OL採用」するものの、そこには超シビアな合理主義があるという――。

今どきの「コネ入社」は大変なことになっていた

コネは就職活動において、昔も今も有力なツールであることに変わりはない。

とくに中途採用市場が未成熟な日本では、求人側・求職者双方にとってコネは新聞広告やハローワーク経由よりも有効かつ確実なツールといわれる。

ネット広告業の人事部長はこう語る。

「応募者の多くは営業などの一般的なスキルの持ち主で、そういう人を欲しいときは求人広告や人材会社経由で探すが、限られた専門のスキルの持ち主は社員や取引先などの関係者を通じて探すほうが効率的。ちゃんとした人の紹介なら人間的な信頼性も担保されるから」

コネと言っても、中途の場合は相応のスキルがあることが前提だ。

そんな余裕のある時代ではなくなった

では、ポテンシャル重視の新卒採用の場合はどうだろうか。

新卒に関しても、もちろんコネ採用は昔も今もある。ただし、大企業に関しては1980年代までは、大した能力はなくても親や知人を通じての縁故採用が珍しくなかったが、1990年代後半以降はコネ入社のハードルが極めて高くなった。

言うまでもなく、バブル崩壊後の日本経済はマイナス成長に入り、企業業績も低迷する中で新卒の採用数が大幅に減少した。しかも、ビジネス環境も大きく変化した。作れば売れるという規格大量生産時代から、多品種少量生産や付加価値の高い商品・サービスが求められる脱工業化時代にシフトした。

いわゆる知識集約型産業の時代に入り、人材要件のハードルも上がり、単なる親のコネでバカ息子や娘が大企業に簡単に入れる時代ではなくなった。

電機メーカーの人事担当役員はこう語る。

「会社が成長していた時代は多少能力が見劣りしても、取引先など重要なステークホルダーの子弟を採用することはあった。でも、そんな余裕のある時代ではなくなった。ただし、なんとか会社に入れてくれないかと頼み込んでくる人は少なくない。業務提携している同業他社の役員から頼まれることもある。その場合は無下に断わるわけにもいかないので特別枠で面接を受けさせている。通常は書類選考を経て、1次面接に進むが、依頼された学生は2次面接からスタートする。だが、それでも落とされた場合は『残念ながら当社の基準をクリアできませんでした』と依頼主に伝えるようにしている」

採用数が減る中で、たとえ有力者の子弟でも無能な人材は採らない方針に変えたのだ。また、オーナー企業を除く一部の企業では役員の子弟の採用を禁止する倫理規定を新たに設けるところもあった。その結果、役員たちはコネに寛容な関連会社や取引先に子弟の入社を依頼する動きも見られたという。