若林氏によると、「アラブ社会のIBM」というのがあるそうだ。「Iはインシャラーの略で『すべては神のご意志で』、Bはボクランで『明日』、Mはマアレーシュで『気にするな』、つまり、すべては神様が決めることであり、明日またのんびりやろうや、という意味」なのだとか。こうしたことが理解できないと、日本人はついイライラしてしまうかもしれない。

ただし、国によって濃淡はある。トルコやエジプトなどは比較的戒律が緩く人々もフレンドリーだが、サウジアラビアなど湾岸諸国では女性の仕事を制限し、ベールを義務付けるなど戒律が厳しい。ドバイなどはホワイトカラーも外国人労働者が占めており、地元の人が町で働いていないなど特殊な位置にある。中東諸国は十把一からげに見てはいけないということだろう。

一方、日本人のビジネス相手として最も身近な中国や韓国はどうだろうか。カーストや宗教がモノをいうインドや中東と違って日本人が理解に苦しむようなマナーはあまりなさそうだ。中国人や韓国人は日本人と顔も体形も似ているうえに距離も近いので、精神的なハードルは低い。とはいえ、知らないと困るマナーもある。

豊田通商の中国駐在経験者で、現在は日中投資促進機構に出向中の千野裕輔氏は、中国人とのつき合いで重要な位置を占める宴会についてこうアドバイスする。

「お酒があまり得意でないのなら、中途半端に飲まないほうがいいですね。地方都市などでは商談に顔を見せなかった“酒席”専門要員が駆り出され、外国人をつぶそうとすることもあります。飲めない場合は肝臓が悪いので、など健康上の理由をつけて、きっぱりと断ってもよいと思います。中国語でトップのことを首席代表といいますが、中国では首席ではなく“酒席”を用意するのはよくあることなので、こちらも飲める人を用意すればよいのです」

中国の都市部や韓国は比較的日本人駐在員も多く、顔も似ているため、精神的なハードルは低いかもしれないが、それゆえに違いを知らないと大恥をかくこともある。

宴会で仕事の話が飛び出すこともあるが、酔って大言壮語しないのもマナーだ。酔った勢いで投資するなどと口走ろうものなら、言質を取られてあとで困ってしまうこともある。

宴会ではホストが座る席など序列が決まっており、それを無視すると先方の気分を害することもあるので、中国人スタッフとよく相談することだ。宴会ではほかに「乾杯のとき取引先よりも杯を低くする」などのマナーがあるので、事前に知っておく必要があるだろう。