宗教の理解が異文化との距離を縮める
富をめぐる争いに一定の秩序を与え、経済活動が成り立つ条件である協調体制を実現することが宗教の目的の一つだった。ビジネスが成り立つための信頼関係を確保することが、宗教の重要な役割だったのである。
11世紀から13世紀にかけてキリスト教国家とイスラム教国が争った十字軍など、宗教戦争と捉えがちな異教徒同士の戦いも、経済戦争としての側面が色濃かった。また、16世紀の宗教改革が、カトリック教会の腐敗へのアンチテーゼだったことに加え、旧教派とプロテスタントの経済利権の争いだったことを知ることで理解は格段に深まるだろう。
イギリスから移住した新教徒・ピューリタンが建国したアメリカは、宗教に対する寛容さを特徴とするが、その寛容さは日本とは異なる。宗教の役割とリスクを知った上での寛容と、無知故の寛容は全く意味が異なる。
『経済を読み解くための宗教史』の著者は、大手予備校で世界史を教え、世界各国を旅した経験を持つ個人投資家でもある。「歴史を現在に活かす、歴史から視界を得る」という考え方に立ち、「歴史に学ぶ」という姿勢の重要性を強調する。さらに、経済と宗教は密接に関連し、異文化との距離を縮めるための手段は宗教を理解することだという。
たとえば、経済力の成長が著しいイスラム圏では、現実に合わせて教義を解釈する形をとったことが経済成長の背景にある。イスラム教は元来金利を認めないという捉え方が通説だったが、現在、配当やリース料という形で利益を得ることが容認されている。
宗教的な制約がなかったことが、明治維新以来の日本の経済的成長を支える要因となった。また、日本の宗教や異文化に対する寛容さはある意味で美徳かもしれない。しかし、理解の裏付けのない姿勢では真の信頼関係は生まれない。日本にとって、経済・ビジネスにおける宗教の理解はいまや不可欠なものになってきたといえるだろう。